ジャケ、ヤバすぎです。
まずこの凄まじいジャケだけを見ると、「あれ、呪怨の新版、今度は單行本で出たの?」と思われても無理はありません。完全に角川ホラー文庫のジャケとかぶっていますよね、このデザイン。
しかし本作は角川の「呪怨」シリーズではなく、出版社は河出書房。大石圭氏のオリジナルである新作ホラーです。
とはいっても内容の方は完全に大石ノベライズ版「呪怨」と同じで、恐怖のヒロインの造型も「呪怨」の伽椰子を髣髴とさせる、……というかそのまんまじゃないですか、大石センセ。
徹頭徹尾、どの頁をめくっても、大石ワールドになっているのは流石で、もうプロローグから突っ走っていますから。上から女が飛び降りてきて、ズズン!となって、「あわわわ……」と、要するにこの繰り返しです。
舞台となるのは一階がコンビニになっているいかにもありふれたマンションで、そこの1303号室に引っ越してきた女性は必ず不可解な死を遂げているというもの。
物語の展開はもう完全に御約束通りに、若い女性が引っ越してきて、隣人にその部屋の過去の住人は不可解な死を遂げていることを知らされてゾーッとなる、部屋の中には腐臭がして他人の氣配がある、そしてついには「あれ」が出て來て「あわわわ……」となって、ズズン! そんなことが二回三回と繰り返されたあと、いよいよ眞打ちの登場となります。
この部屋に住んでいた妹が飛び降りて亡くなったのを不審に思った姉がそれで、彼女は妹の戀人から話を聞いたりしながら色々と調べていくのですが、最後には御約束通りに「あれ」が現れて、ああなって、ジ・エンド、となります。
1303号室に引っ越してきた住人を中心に物語は直線的に進むのですが、ときおり挿入される恐怖のヒロイン幸世の逸話がとにかく痛々しい。皆から疎外され、……というかその存在さえも気付いてもらえないという辛い幼少期から始まり、半分狂っているとしか思えない母親、そして學校を卒業したあとの單調な工場での仕事。
友人もいない彼女はこの機械に名前をつけてブツブツと話しかけていたりするんですよ。ハタから見ていたら完全に狂っているんですけど、とにかくそんな鬱々とした記述を淡々と語る彼女の靜かな狂氣は相当なイヤ感を釀し出しています。
そして自分の唯一の「話し相手」であった機械が老朽化して廃棄処分となったのを機に彼女は工場を辭めるのですが、そのあとの母親の狂亂がこれまた凄まじい。そして母の死をきっかけに彼女の狂氣がいよいよ炸裂して、……ともうこの後の展開は本當にイヤでイヤでたまりませんでしたよ。
大石氏は「現時点での僕が考えうる恐怖の集大成」なんていってますけど、全体に漂っている雰圍氣は怖いというよりイヤーな感じなんですよねえ。
そしてさらに不氣味なのが、1303号室の隣人の女の子です。結局この少女って幽靈だったのか、それとも……というラストが秀逸。しかし本當に、この少女は何だったんでしょう。もしかしたらすべてのきっかけはこの隣室であって、少女は既に死んでいて、しかしその少女はまだ誰にも見つけられていなくて、……なんて話を想像してちょっとゾーッとなってしまいました。不可解さを殘した終幕はこれもまた最近のホラー小説の御約束でしょう。
不動産屋のオバサンや、黒子があって口臭の酷い齒抜けの管理人などキャラ立ちしたチョイ役のキャストもいい味を出しているし、捨てても捨てても出現する安物のリングなどホラー小説ではこれまた御約束の小物使いもうまい。
飛び降りのモチーフは、以前ノベライズした「4人の食卓」に触発されたものでしょうかねえ。
大石ワールドの骨法を完全に理解した登場人物たちが御約束のシナリオを完璧に演じて展開する、當に大石圭エッセンス百二十パーセントの本作、角川版「呪怨」を讀み返すんだったら今はこれでしょう!