「ミステリXホラーの新旗手」というよりは、個人的にはミステリを実話怪談にシフトさせたら「ひばり」になっちゃった! ――という印象の赤星ワールド第三弾。本作でも『赤い蟷螂』がさらりと語られたりしていて三作の連関を感じさせるのですが、別に前二作を読んでいなくても十分に愉しめます。
物語は、ちょっとキ印入った妻と不気味君の息子がいるワナビー野郎が、上司の命令で訳アリの秘湯へ行かされることに。これまた因縁アリの友人と再会したのもつかの間、地震が発生し、旅館は外界と分断された陸の孤島状態に。そこで主人は不可解な死を遂げてしまう。白衣をまとったキ印のいう「幼虫様」の正体は? そして自殺テープの呪いは本物なのか、……という話。
いくつかの猟奇殺人事件と、吐き気を催すほどの激しい拷問のディテールにプラスして、自殺者が録音していたという不気味テープが呪いを引き起こしたりと、ナックルズ系のチープ感が炸裂したネタのブチこみぶりもさることながら、冒頭の旅館の安っぽい描写からして赤星ワールドではお馴染みの「ひばり度」はすでにマックス。
そもそも「幼虫」というタイトルからしてかなりアレなんですが、冒頭の夢のシーンでは蛾の幼虫がウジャラウジャラと湧いてくるわ、「太く青黒い血管が浮き出た」子供の頭部に、怪しげな新興宗教と読み進めていくうち、どうしても日野日出志画伯の絵で脳内再生されてしまうという、『虫とり』と同様の体験ができるところも期待通り。
クローズドサークルと化した怪しい旅館で人死にが発生し、次々と人が消えていくという展開はコード型本格でもお馴染みの本格ミステリ的ではありますが、本作の真骨頂はあくまでホラー、というか実話怪談のソレで、特に曰くありげな旅館に何かと絡んでくるムシムシ大行進の大盤振る舞いに加えて、汚い白衣を纏ったキ印男など、登場人物のキャラ設定もB級どころかヘタをすればZ級と誹られる風格ながら、そこがまた好事家にはたまらない魅力と映るわけで、このあたりは完全に好みの問題でしょう。
自殺者が吹き込んだ呪いのテープは正直、「新潮45」とかで読んだことがあるような、ないような既視感ありまくりの内容であるし、猟奇殺人の監禁拷問など、どうしても某事件を想起させてしまう仕上がりながら、本作の場合、そうした既視感がもたらす稚拙さが、この怪しげな旅館の醸し出す違和感と不可解なリンクを見せており、この奇妙な感覚が事件の構図へと繋がっている趣向が素晴らしい。
ミステリ的な意味での「真相」については予想の範囲内であるし、その一見すると社会派っぽい動機など、フツーの小説としてはまア、納得といえるものながら、そうした腑に落ちるべき事件の真相からにじみ出すぎこちなさが、上に述べたような小説としての稚拙さと交合を見せ、結果として異様な怪談として帰結する仕掛けもいい。
正直、猟奇殺人のディテールだけでも吐き気を催すほどのおぞましさで、前作の『赤い蟷螂』のエロスを笑って読み流すことができた自分でも、今回のグロネタには不快感もマックスゆえ、リアルな事件をどうしても想起してしまうという方におかれましては、そのあたりだけでも軽くスルーしておくのが吉、でしょう。
『虫とりのうた』『赤い蟷螂』と本作をもって三部作とするべきなのか、それともまだまだ続きはあるのか、そのあたりは不明ながら、ぎこちなさと稚拙さから醸し出される不気味さは、三作中ピカ一で、案外、本作から赤星小説の異常世界にダイブしてみる、というのもアリかもしれません。
廃屋に忍び込み、ベッドの上に転がっていたマネキン人形の首を見つけてしまったとか、田舎の畦道にポツンと真新しい乳母車が置いてあったとか、そんなかんじの気持ち悪さが横溢した本作、ミステリとして読むとその真相は落ち着いたものながら、その明快さでは背後にある実話怪談的な怖さを読み取りながら愉しむことをオススメしたいと思います。