凄すぎ。
スペインのGoticがドリーム・シアターと渡辺香津美を聽いて、スーパーヘビージャズロック(勿論造語ですよ)に目覺めてしまった、みたいな作品です。
まず一曲目の「プリーズ!」聽いただけで腰が抜けますよ。ノリノリのギターと雄叫びから始まる冒頭部こそ普通のリズムを刻んでいるものの、……その後のこれは何ですかッ。ギターとフルートによる超絶高速ユニゾン。もう「二十一世紀の精神異常者」でサックスと凄まじいユニゾンを披露して得意氣になっていたフリップ先生も眞っ青じゃないですかこれは。そしてこの超絶ユニゾンとは對照的な、フルートのリリカルな旋律で流れるように進む展開はどうでしょう。疾走しながらも的確なリズムでサポートするドラムもいいが、実はトンデモないことをやっているベースにもここは耳を澄ませてみたいですねえ。
二曲目の「要するに「見え方」変えただけだろ……」はサックスが主旋律を奏でながら普通のジャズっぽい雰囲気で進みますが、ここでもやはり緊張感を孕みながら幽玄な旋律で魅了するフルートがいい味を出しています。しかしこのベース、サックスとフルートの影に隱れていますけど、凄い歌いっぷりですねえ。かなり好きです。
「Memory」はこれまた懷かしい雰囲気さえ感じられる重めのギターサウンドで幕を開ける、このバンドの持ち味のひとつであるヘビーな側面が前面に出た曲。ずっしりと響くリフとともに暴れまくるギターが盛り上げます。前の二曲に比較すると結構ぶっきらぼうに聞こえてしまいますが、それでもこのヘビーさはドリーム・シアターを髣髴させますねえ。
「ゴミ箱には629項目入っていて、……」はとにかく勢いだけでギリギリと煽りたてる曲。個人的にはこういう單調な旋律と展開だけで押しまくるものよりも、一曲目の「プリーズ!」のような雰囲気の曲の方がこのバンドの力量を見せつけてくれて好きなんですけど、こういうロック魂が炸裂した曲もまたこのバンドの持ち味のひとつなのでしょう。それでもやはりフルートが入ってこないとちょっと物足りないですよ。
「CRISIS」は五部に分かれた大曲。「Memory」と同樣の、叩きつけるような重めのギターのあと、幽玄なフルートがしずしずと入ってくる冒頭部から、ぐんぐんと疾りまくるところが恰好いい。そしてギターが騷ぎ立てるなかを華麗に疾走するフルート。素晴らしすぎます。中間部のフリーキーなサックスが轉じて、しずしずとギターがタメながら、ギターの轟音とフルートが炸裂するパートへと移るのですが、これも完璧でしょう。最後の暴走といい、素晴らしい構成で長い曲乍らまったく飽きさせません。これもまた「プリーズ!」と竝ぶ名曲。
「ちっぽけな自我を」は、かき鳴らされるギターから始まる曲で、ちょっと他の曲とは雰囲気が違う冒頭部にはっとさせられます。珍しくギターが歌っているのも興味深いですねえ。
「Seven minutes squeezer」は吹き荒れるギターのサスティーンに續いてフルートがこれまた華麗に疾走する曲。ちょっと今までのフルートと音が違うな、と思ってジャケみたら、何とフルートが違う人みたいですねえ。途中に入る緊張感を孕んだ靜の場面からの爆発も聽き処でしょう。ギターソロのパートが意外に多いのですが、やはりこのバンドの持ち味は、爆走する演奏のなかを華麗に流れるフルートではないでしょうか。そして凄いことをやりまくっているベースも忘れてはいけません。表面的には爆音のギターばかりに耳がいってしまうのですが、何度も聽いていると、いかにベースが凄いか分かります。
最後の「HOCUS POCUS」はお馴染みFOCUSのアレですが、ヨーデルは入っていません。「ライロロ」もなければ、「ニンギニンギ」も「オエオオッ」もないので、FOCUSの名曲だと思うとちょっと肩すかしを喰らってしまうかもしれませんが、それでもあの名曲をこういうふうに料理してしまうのかという新鮮な驚きがあります。完全にこのバンドの曲に昇華させている手腕は見事としかいいようがありません。
という譯で、現在レコーディング中というセカンドが愉しみですよ。個人的には「プリーズ!」で見せてくれた、ギターとフルート、それにベースも交えた超絶高速ユニゾンがテンコモリの曲を期待したいところです。
プログレというには、和プログレに特有のバタ臭さがまったくないところが異端というか。當に新しい世代のバンドといえましょう。ジャケ帯には「ロック・プログレ」と書いてあるんですけど、寧ろ「プログレ」と斷り書きをいれない方が人氣が出るんじゃないかとかも思ったりします。しかしその一方でこれだけの凄いバンドにはやはりプログレというジャンルを意識して新しい音樂を生み出していってほしいという、プログレ愛好者としては相反する思いが交錯してしまうのでありました。超おすすめ。