記念すべき陳綺貞のファーストアルバム。モノクロームのジャケから何処となく暗い雰囲気かなと想像してしまうのですがさにあらず、冒頭を飾る「讓我想一想」はギターの輕快なリズムと、伸びやかな歌聲が魅力的な彼女の代表作ですし、セカンド「還是會寂寞」やサード「吉他手」に比較すれば、凝った展開やアレンジがないぶん、彼女の素の魅力を堪能することが出來るアルバムといえるでしょう。
續く「微涼的ni」は涼やかなギターに管樂器を併せた出だしがいい。しずしずと盛り上がっていくものの、輕やかな雰囲気は最後まで變わらず、彼女の可愛いらしい歌聲がこれまた素晴らしい一曲です。
「會不會」もまた落ち着いたピアノの旋律にギターがそっと入ってくる中華ポップスの王道的な冒頭から、エコーのかかった夢見がちな彼女の歌聲がモノトーン風の雰囲気でじっくりと盛り上がる曲。
「情歌」も冒頭の管樂器が歌の雰囲気を整え、彼女の淡々とした歌聲が滑り込んでくるという構成で、この曲は彈き語りでもいいのでしょうが、伴奏部分で奏でられるストリングスが靜かに盛り上げていくところが光っています。本作ではこの曲のように、ストリングスや管樂器をうまく使って、室内樂的、或いはムードジャズ的なアレンジがアルバム全体のトーンをつくっているのが特徴でしょうかねえ。
「和ni在一起」はギターの彈き語りふうでありながら、冒頭のコーラスでは男聲もさりげなく入っているような氣が。上の四曲とは雰囲気を異にして、輕やかな曲です。ここでも囁かれるように歌う彼女の歌聲が可愛らしい。途中でハーモニカが入るところが今までの曲にはないところでしょうか。
「嫉妬」は低めのストリングスから始まり、ピアノの伴奏に併せて、落ち着いた聲調でじっくりと歌われる一曲。ここでも背後で鳴っているストリングスが曲の雰囲気を形成しています。陳綺貞というとギターの彈き語りのイメージが強いんですけど、本作ファーストはこの曲も含めて室内樂的な伴奏をバックにじっくりと、切々と歌い上げる曲が多いです。ギターの音を全面に押し出して、ポップスやロックの作風へと轉じていくのはセカンドに入ってからなんですねえ。
「孤島」は寂しげな音を奏でるギターと管樂器をバックに堂々と歌い上げられる一曲。だんだんとストリングスで盛り上がっていく展開が明確で、本作ファーストの特徴をもっとも端的に表した曲といえるのではないでしょうか。
「孩子」は「讓我想一想」と同じ系譜に入る曲でしょうか。室内樂フウの落ち着いた曲が續いたあと、輕快なギターのリズムに歌われる彼女の伸びやかな聲が魅力的な一曲です。そしてこの輕快感がセカンドへと繋がっていく譯です。
「天使」は冒頭のスローテンポなギターの旋律がおや、と思わせるものの、そのあとはエコーのかかった彼女の聲がムードジャズっぽい雰囲気を盛り上げていきます。メロウなギターと、間奏部分で入ってくる管樂器がアンサンブルの冴えがいい。この曲の雰囲気もセカンド以降ではなくなるので貴重でしょう。
そして最後の「漫漫常夜」はしずしずと立ち上ってくるストリングスに、彼女の情感を込めた歌が重なり、まんまクラシック音樂フウの盛り上がりを見せます。少し間をおいたあと、彼女のアカペラが入って終わるのですが、これだけ聽いたらポップスのアーティストとは思えませんよ本當に。當にアルバムの最後を飾るにふさわしい素晴らしい曲でしょう。
セカンドで展開されていた元気いっぱいのポップスや、惚けたような可愛い雰囲気の彼女を期待すると違う、と思ってしまうアルバムではあるのですが、ポップスやロックから大きく離れた室内樂的なアプローチが彼女の歌を大きく引き立てており、彼女の歌聲を堪能したい方には一番おすすめしたいアルバムです。
という譯で、ようやくファーストから最新作である「華麗的冒險」まで全てのレビューを書いてしまった譯ですが、それぞれのアルバムは雰囲気が大きく異なり、すべてが素晴らしい作品であるところから、入門編としてどのアルバムを一番におすすめしていいのか迷ってしまうところですが、ここは全てを聽き通す覺悟で、本作ファーストから手をつけてみるというのも勿論アリでしょう。個人的にはそうしてもらうのが、彼女の作風の変化と成長を見ていく上でも最もいいかなあと思ったりもします。
いずれにしろ、全ての中華ポップスファンにとって、彼女の全アルバムはマスト、といえるのではないでしょうかねえ。おすすめ。