ええと、決して「魁!!クロマティ高校」が好きで購入した譯ではありませんで、っていうまでもないですか。
一応、本作と第二彈となる「魁!! クロマティ高校 オリジナルサウンドトラック 2」というのが既にリリースされておりまして、ボーナストラックで「警告」のライブが入っているところなど、舊来からのファンを意識しているのは「2」の方なんですけど、まずはこちらの方を先に片づけてしまいましょうかねえ。
本作の特徴でありますが、全ての曲が短い、というか短すぎます。あともう少しあればかなり盛り上がるのに勿体ない、というかんじのノリの曲が多く、自分のような昔からのファンには少しばかり物足りないところも多々あるのですが、それでもアニメのサントラということでプログレファンだけではなく、多くの人に美狂乱の音樂を聽いてもらえる點を素直に喜ぶべきでしょう、……とはいいつつ、アニメのサントラを購入するコアな人って一體どのくらいいるんでしょう。もしかしたらプログレファン以上に少ないのではないでしょうか。
23曲が収録されているのですが、正直全ての曲にレビューを添えるのは無理なんで、印象に残った曲だけということにしますが、まず一曲目の「トラスト・ミー part1」。「狂暴な音楽」からの系譜を繼ぐ、デロデロしたギターと唸りをあげるベースが印象的。
「街の光」はとにかく須磨息子のバイオリンがいい。アンソロジーでも感じたことですが、現在の美狂乱の音をつくっているのは実は須磨氏のギターというよりも須磨氏の息子さん和声氏のバイオリンの方じゃないかな、などと考えてしまうのでありました。更には中盤で展開されるギターとバイオリンの親子の掛け合いが、美狂乱らしい緊張感を感じさせます。しかし短いんですよねえ。この次の展開を聽きたいんですけど、結構素っ氣なく終わってしまいます。そこが殘念ですよ。
「ジェントルマインド」は美狂乱の「美」の部分だけで引っ張る曲で、ここでも和声氏のバイオリンが雰囲気をつくっています。バイオリンに變わって品のあるギターのアルペジオが旋律を引き繼ぐあたりの展開もいい。こういう曲は小さく纏まっていても違和感がありません。
「Higurashi」は名前からして「狂暴な音楽」からの引用でしょうか。ここでもバイオリンが展開を引っ張っていきます。ストレートなギターが、メロトロン風の旋律に轉じるところなど、當にニヤニヤしてしまう出来榮え。
「フレディのテーマ」は確信犯でしょう。クイーンっぽいっといえば確かにその通り。サスティーンのギンギンに效いた須磨氏のギターが懷かしい。でもこれも素っ氣なく終わってしまうんですよ。勿体ない。
「激しいペールギュント」も須磨氏のギターは裏に回って、息子さんのバイオリンが牽引する雰囲気を、過激なリズム陣とともに支えていくような構成です。
「スクエアムーン」もこれまた和声氏のバイオリンが展開を引っ張っていきます、っていうか、ずっとバイオリンが主役ですよ。この曲のボーカルバージョンは「2」の方で聽けるのですが、個人的には須磨氏のボーカルが入っている方が好みですかねえ。
「メカ沢ミニマル」は「ゼンマイ仕掛け」の編曲ですね。ここでクリムゾンのアレを引用するのは野暮というものでしょう。「ゼンマイ仕掛け」と違うのは、ギターの音色にも何処か惚けた雰囲気があることでしょうか。もう少し長いと「ゼンマイ仕掛け」の呪術的な展開で盛り上げることも出來たのに、と思うと惜しい。
「トラスト・ミー part2」は須磨氏のボーカル入り。ただこのボーカルは「狂暴の音楽」のそれで、めいっぱいにディストーションを效かせた「21世紀の精神異常者」系のそれでありまして、須磨氏の美声を推している自分としてはちょっと、というかんじでしょうか。
「Go North West Go」は伸びやかなギターの旋律が印象的な冒頭から、再びバイオリンが主題を引っ張っていく展開。こういう曲が現代の美狂乱の音なんですかね。
「アフリカカリンバ」はまんま「21世紀のAFRICA」。ただ、「AFRICA」の方で中盤から入ってくる凶惡なギターサウンドと須磨氏のボーカルを期待してはいけません。ずっとマリンバの音だけで引っ張ります。これも二十分を超える大作であれば、絶對に「AFRICA」のような素晴らしい展開になったのにと思うと、これまた勿体ない、と感じてしまうのでありました。
「mechazawa Hi-Speed」は吃驚するくらいにあからさまなロックサウンド。ストレートなギターに裏で鳴っているハモンドと、當にあの時代のハードロックを髣髴とさせる旋律が何というかあまりに開けっ廣げでちょっと笑ってしまいましたよ。
「即興 3」は須磨氏のギターだけの曲。即興といいつつ、爪彈かれる一音一音に魂が隱っているように感じられるのは流石というところでしょうか。
「眠りの淵」もバイオリンが室内樂フウに展開される小曲、という譯で、本當に須磨和声氏のバイオリンがフィーチャーされている曲の多いこと、そしてそれらがおしなべて素晴らしい出来榮えなものですから、アニメサントラではない次作には俄然期待してしまう譯ですよ。もっとも「アンソロジー」を聽いた時から、次世代の美狂乱の音は和声氏のバイオリンがつくっていくに違いないと確信していたんですけどね。まあ、その通りになりそうです。
「即興 1」は機械的なバイオリンの旋律がクロノスっぽく、裏で鳴っているギターとポコポコしているドラムがちょっと不氣味。クリムゾンを引き合いに出すとすれば、「Providence」でしょうかねえ。
「聖夜」は爽やかに響くギターとコーダの調べが美しい美狂乱の「美」の部分。「組曲 乱」の「エピローグ:真紅の子供たち」を思い浮かべてもらえば宜しいかと。とにかく美しい小曲であります。
「聖夜」の美しい餘韻を湛えたままこのアルバムは終わるかと思いきや、最後の「トラスト・ミー part 3」はこれまたストレート過ぎるロックンロール。須磨氏のロケンロールしたシャウト風のボーカルに、「トラスト・ミー」の主題が演奏されて唐突に終わります。
という譯で、舊来のファンもなかなか愉しめると思います。ただしつこいようですが、短い、というか短過ぎるので、そこのところがクリア出來る人であれば買いだと思いますよ。