毎回毎回凄まじいイヤ感を釀し出す強烈な小噺がテンコモリの「東京伝説」シリーズではありますが、今回は「忌まわしい街の怖い話」に収録されていた「都会の遭難」や「闇鍋」のような想像力のリミッターを振り切ったような強烈な傑作はないものの、最初期のハルキ文庫のような都市伝説や蟲系をモチーフにした粒ぞろいの佳作が揃っています。一册の本として全体的な完成度を見た場合、ここ最近の作品ではかなり好みですねえ、この路線は。
特に「突然襲われる」「突然拉致される」といったアウト・オブ・ザ・ブルー節が炸裂する「シャワーノゾル」は叫び出したくなるような氣色惡さが絶品。想像しただけで體中におぞけが走るようなイヤ感が堪りません。
湾岸道路付近を警邏中のパトカーに保護されたというチャイナドレス姿の女性が、都内の救急病院に運び込まれてくるのですが、その女性は例によって藥物による強いショック症状と暴行によって衰弱しきっていたという。身許も分からない彼女が形成外科醫に語った恐ろしい出來事とは、……という話。「拉致」と「蟲」「中華モノ」といった都市伝説の定番を巧みに組み合わせた構成に平山節が冴える一品です。
定番の蟲ものとしては、そのほかに「スプリンクラー」がいい。泌尿器科を訊ねてきた或る若い女性を診察するシーンのエグさえが尋常ではありません。とにかく腦髓を直撃するような蟲の描写に背中がムズムズしてしまうような作品。
拷問系では「額か歯か」が際だっています。タイトルからしてどんな拷問かは明らかなんですけど、要するにかの拷問シーンだけで鮮烈な印象を残すことになった「マラソン・マン」のアレでして、これに「突然襲われる」という例の状況をセットにした強烈な作品です。
また「いってもどっていってもどる」もその拷問のアイディアが光る小噺。大陸産のドラッグを販売する連中に招待された男が見た餘興とは、という話で、そのドラッグの效能を示すべくジャンキーの男と女がその出し物として彼等の前に姿を現し、……というところから、考えただけでオエッとくるようなエグい描写が續きます。
ストーカーものでは「永遠キッス」が鮮烈な印象。相手を傷つけるのではなく、自分の體を傷つけそれを相手に見せつける、という話は「東京伝説」シリーズでも既にお馴染みのものではありますが、本作もその系統に属する作品です。ここでは一體どんな自虐行爲を見せつけるのかがキモな譯ですが、今回のはかなりキています。更には切り取った自分の一部を女性にアレさせるという御約束の展開がまたいい。「ケエッ!」という男の狂った叫び聲も強烈です。
奇妙な話で一番だったのは「ダルマ」でしょうかねえ。當に恐怖と笑いは紙一重という言葉を体現したような小噺で、部屋にやってきた老婆と女性との會話が素晴らしくいい。偏執的な老婆のものいいからどうにかして逃れようと必死に會話を續ける女性が何処か笑えてしまう。
不氣味な話としておすすめしたいのは、「厭な臭い」。姿を見せないストーカーがモチーフなのですが、風呂にアレしたり、洋服にアレしたりというのも怖いけども、そんな変態が複数人で自分の部屋に出入りしているかもしれず、またその目的がまったく判然としないところが恐ろしい。
という譯で、この「東京伝説」シリーズ最新刊も、安心して平山節を堪能することが出來る傑作でありました。いうまでもありませんが、蟲、拷問が嫌いな人、更には女性の方も手に取るのは差し控えた方が宜しいかと。