「殺手、登峰造極的畫」に續いてまたまた九把刀の一册を紹介したいと思います。本当は殺手シリーズの第二弾を讀みたかったのですけど、三册目、四册目しか手に入れてないので、とりあえず「都市恐怖病系列」と題したシリーズの中の一册である本作を先に手に取ってみました。
あらすじをざっと讀んだ限り、何だか刑事が出てくるし殺人鬼を追いかけるサスペンスもの樣な雰囲気――ということで、「台湾の西尾維新」といえども自分のようなロートルのミステリファンでもノープロブレムだろ、なんてことで購入に踏み切った譯ですけど、ジャケを見るとさりげなく「限」というシールが貼られていたことに気がつきました。
「限」とは要するに十八歳未滿の良い子は讀んじゃダメ、ということですけど、ここでいったいどんなフウにエロいんだろう、なんてグフグフと期待しまうのは御法度で、十八禁といっても本作の場合はエロではなくてグロ。とにかく眉根を顰め、思わずオエっと吐き氣を催してしまうような壯絶な描写がテンコモリでありまして、正直、讀了した今も頭がクラクラしているほどですから、フツーの本讀みが西尾維新を求めて手に取ったらトンデモないことになること請け合いです。
物語は二人の刑事を軸に、Mr.Gameなる連續殺人鬼を追いつめていくというサスペンスものなのですけど、ここに刑事の片割れの一人が犯人の引き起こす犯罪シーンを夢として見ている、というところがミソ。この刑事が見ている夢は果たして豫知夢なのか、それとも犯人かあるいは被害者の見ている殘像なのか、というオカルトを大胆に導入することによってやや單調になりがちな物語をサイコスリラーに仕上げているところは秀逸です。
実をいうと本作の舞台は東京でありまして、細部に台湾人作家から見たニッポン、とでも表現したくなるようなやや微妙なところが散見されるところはご愛敬、刑事の名前も赤川に金田一と、フツーの日本人であれば三毛猫ホームズやら耕助やらじっちゃんを思い浮かべてしまうところもアレなら、刑事のチームの中にいる女性も紀香とこれまたベタなところは微笑ましい。さらには最後の最後で夢の中とはいえ実在する女性アーティストがミニコンサートの會場でブチ殺されるという壯絶なシーンが用意されてあったりと、まずこのままのかたちでは日本でのリリースはほぼ不可能、というディテールにも注目、でしょう。
さらには刑事たちがやたらとShit!とかGogogoとか英語を語り散らすところもアイタタタという気がしないでもないのですけど、まア、ツッコミはこれくらいにして(爆)、実際の物語に目を向けると、やはり十八禁も納得と大きくう頷いてしまうような、殺人鬼Mr.Gameのコロシの技法が素晴らしい。
初っぱなのシーンからしてもうグロマニアは大歡喜、綾辻氏の「殺人鬼」とか、「殺し屋1」とかの、とにかく痛覺をビンビンに刺激してみせる陵遅処死チックな殺人方法を大開陳。
キ印野郎は宅配を裝ってイキナリ部屋に入ってくるや、「さあ、ゲームの始まりです」と、周圍の空気も無視して殺人ゲームのルール説明を開始。三十六歳の人妻に対してはペンチを使って自分の齒を全部拔いてください、出来なければここにいる家族全員皆殺しだからよろしくッ、という平山ワールドのような展開には思わず悲鳴をあげたくなってしまいます。
この冒頭から描かれる「家庭倫理大團結的合作遊戲」のほかにも、「兄弟情深」と題して、兄弟同士でこれまたペンチで全部の爪をひき拔いてください、というあまりにアンマリなゲームを提案したり、さらに後半にはこれまた女が犧牲になって體中の穴という穴をアレしてください(オエッ)、というようなおぞましすぎるグロシーンが大展開されていきます。
このグロシーンを除けば、物語は刑事の夢と実際の犯罪シーンとの差異など、この夢の情景の謎に絡めていくつかの推理が行われたりと、ミステリとしても實直な見所も織り交ぜつつ、Mr.Gameの犯罪とともに警察組織の人間達が殺されていく連續殺人とともに、サスペンスを基調としながらも犯人當てとしての結構も持たせています。
とはいえ、犯人の方は、約一名怪しすぎる輩がいるがゆえ、フーダニットに関してはもうバレバレ、ミステリファンとしては寧ろこの夢のシーンに絡めたいくつかの謎がどのような仕掛けによって解明されていくのかを追っていく讀みがオススメでしょう。
前半からやや謎めいた手記が挿入されていて、これが後半になるにつれて刑事たちのシーンとどのように連關していくのかというところも見所で、警察内部の不穩分子の存在をにおわせつつ、犯人の正体やその背景にオカルトめいた風格も添えて、連續殺人狂を追いかける刑事たちという平板になりがちサスペンスにふくらみを持たせているところも秀逸でしょう。
刑事二人のイラストが作中に添えられていたりと、何となく若者に阿った一册を裝いつつもあまりに壯絶なグロシーンに十八禁であったりと、何とも評価の難しい一册で、前に讀んだ「殺手、登峰造極的畫」の落ち着いた筆致によって人間の悲哀と慟哭を描き出した風格とはまったく異なる物語です。「殺手」と本作が同じ作者であることにはチと吃驚、ですよ。
平山センセの「SINKER」級にグロシーンが満載、という物語ゆえ、かなり讀者を選ぶ一册といえるかもしれません。しかし恐らくは代表作ともいえる「功夫」が本作と同じ「都市恐怖病系列」に入っているのですけど、いったいどんな物語なのか気になるところです。