あの奇才、式貴士の作品がまさか光文社から復刊されるとは吃驚でした。タイトルが「カンタン刑」で復刊といっても、「式貴士 怪奇小説コレクション」とある通りに「カンタン刑」、「連想トンネル」、「イースター菌」、「ヘッド・ワイフ」、「怪奇日蝕」、「アイス・ベイビー」からの「怪奇小説」に相応しい作品をセレクト、そこへさらに単行本未収録作品である「メニエール蝉」、「塵もつもれば」、上村一夫の画になる「仕置猫」を収録という豪華な一冊です。
さらに解説にはあの五所光太郎氏、そして平山夢明氏の巻末エッセイ「破壊されて嬉しかった日」を収録とあればこれはもう、式貴士ファンは勿論のこと、怪奇幻想小説から平山氏のファンまで正にマストの逸品といえるのではないでしょうか。
「カンタン刑」、「連想トンネル」、「イースター菌」、「ヘッド・ワイフ」、そしてふしぎ文学館の「鉄輪の舞」は既にこのブログでも取り上げているので、「怪奇日蝕」と「アイス・ベイビー」からの作品、さらに単行本未収録の作品のみを今回は紹介したいと思います。
「怪奇日蝕」からの一編「おれの人形」は、例によって奇天烈な超能力を手に入れた野郎を語り手に、その能力をエロい方向に使ってやろう、という話。この系統の式作品で一番のお気に入りは、とある超能力によって優等生の美人を淫魔にしてしまうとエピソードがエロ過ぎる「触覚魔」だったりするのですけど、本作ではエロ以上に式貴士というよりは蘭光生じゃないの、というほどに被虐趣味が際だち、イヤ味をイッパイに残した読後感も含めて何とも鬱になる一編です。
最初の方はフツーにブツを石に変えてしまうという超能力を使ったイタズラが語られるのですけど、式ワールドといえばやはりエロという譯で、その能力を憧れの女に對して行使、そのあとはアンソロジー「猟奇文学館Ⅰ 監禁淫楽」に収録されたこともあるのも納得、という被虐淫虐の展開へと流れていきます。
「血の海」は、世界の水が全部血になってしまうという、これまたナンセンスな奇想をべースに仕上げた一編ながら、ここでは前半の白血病の妻と語り手との、哀しさゆえにユーモアを忘れないという二人の會話が悲哀を誘います。悲哀の中のユーモアやロマンティシズムといった式ワールドの風格が堪能出來る前半部から、後半は例によってトンデモな終末世界が描かれていき、最後に不安を添えたオチで決めるという様式の光る逸品でしょう。
「メニエール蝉」と「塵もつもれば」はショーショートともいえる短さながら、仕掛けを効かせているという点で「塵もつもれば」が個人的な好みでしょうか。人間の死期を言い当てる占星術ソフトを開発、というトンデモネタからSF的奇想へと流れるのかと思っていると、ミステリ的などんでん返しを決めてくれるという作品で、ショートショートだからこその技巧も素晴らしい。
「仕置猫」は、「夢の子供」に用いたバカミストリックを用いながらも、上村氏の劇画が悲壮な雰囲気を出しているところがステキです。解説で五所氏が述べている通りに「父親と息子の奇妙な関係」も何だか気になるし、ホトトギスの例え話を聞いて涙する息子の繊細な雰囲気が一転して、後半では邪悪顔になっているところの描き分けもうまく、そのオチも含めて「夢の子供」とはまったく違った風格へと仕上がっている逸品です。
平山氏のエッセイを巻末に配したところも秀逸で、確かに平山ワールドが持っているグロ、ナンセンス、そして悲哀とロマンティシズムは確かに式貴士の世界にも通じるし、平山氏の小説が世間に受け入れられている今だからこそ、本作で大展開される怪奇幻想の風格が横溢した小説世界もまた大いにアピール出來る時代がようやくやってきたのではないか、なんて感じた次第です。
チラシには「真冬のホラー小説フェア」と題して本作が掲げられているのですけど、ホラーというよりは怪奇幻想という意匠が相応しいのでは、と個人的には思うものの、実際最近の角川ホラー文庫を眺めてみても、小林泰三氏とか遠藤徹氏とか曽根圭介氏とか、奇想とグロとナンセンスが炸裂する物語世界を構築したものも多く、ホラーという意匠で式ワールドを一般讀者に提示するというのもまア、間違ってはいないのカモしれません。
「式貴士 怪奇小説コレクション」とあるので、次は「奇想小説コレクション」とか「エログロ小説コレクション」とかもブチ挙げて、第二弾、第三弾というふうに式貴士小説の全作復刊を期待したいと思います。次は「虹のジプシー」を是非。