例のシリーズの新作。孤島に繰り出しコロシが発生、女子高生とオッサンがワイガヤで推理を進めていく展開は期待通りながら、何しろ今回は、皆で孤島に行く理由付けに無理矢理感がありすぎ、というところがアレながら、後半の推理ではその無理矢理感もロジックに組み込んでしまう強引さも光る一冊で、堪能しました。
とはいえ、物語はイキナリ孤島から始まるわけではなく、女子高生の猟奇死体がゴロゴロ出てくるところから、ミッシングリンクを探っていくというのが前半のキモ。このあたりも魅せてくれるのですが、シリアルキラーから逃れようと何故か皆をして孤島に行ってしまってからが本番です。館の主人が仮面をつけているなど、これまたやりすぎ感ありまくりの登場をしているところに苦笑していると、ほどなくして犯人からの挑戦状めいたものとともに一人、また一人と誘拐されてしまう事件が発生。果たして、誘拐事件の犯人は、そして冒頭に登場した連続殺人鬼の正体は、――という話。
……と、まとめてみたものの、今回は連続殺人事件の犯人と、件の無理矢理感ありまくりの孤島のパートとの繋がり具合があまりに強引すぎるところがかなりアレ(爆)。とはいえ、中盤で詳述される完全犯罪へのこだわりや、本作の仕掛けにも大きく繋がっているDNA講義が素晴らしい。
孤島のコロシで残された人物がホンの僅か、ゆえに犯人が嫌疑を逃れるにはあまりに不利、という小学生でも判りそうな設定からして、本作がフーダニットについてはそれほどのこだわりを持っていない作品であることは明らかで、一番のキモは何といっても、犯人はいったい全体、どうして孤島を舞台にコロシを行わなければならなかったのかというその動機。
この動機の異形さは、DNA講義とも密接に関連しているものながら、それでもあまりに異様で、読者の価値観と想像を遙かに超えているがゆえに、フツーの思考では当然推理できないという激しいもの。その意味では本作の趣向は、近作では『キョウカンカク』に通じるものがある、といえるかもしれません。あの作品も、フーダニットという点に関していえば犯人はバレバレながら、そのあまりに激し過ぎる動機が開陳された瞬間、魂を抜かれてしまうという逸品でありましたが、本作もまた小説でしかありえない、という、リアリティ度外視の壮絶にして鬼畜なネタで読者を唖然とさせてくれます。
アマゾンの書評には、この動機だったらもっと犯人の過去とか書き込まなきゃダメだべ、という意見があるのもある意味同意はできるものの、個人的にはむしろそうしたドラマを排除し、あくまで小説の中での絵空事、ゲームとして物語を構築しているからこそ、読者にリアリズム云々といったところを考えさせる余地を与えず、それによって逆に小説内の現実感を強化させている、――という印象を持ちました。
確かにフツーの小説であれば、過去の事件と連続殺人鬼との連関がもっとしっかりしていないとイカン、ということになるのかもしれませんが、本作ではその過去の事件と現在の事件の連関のぎこちなさが、不確定な事象に対する怖れによって殺人行為を行うにいたった犯人の宿業を描き出しているようにも感じられるゆえ、この繋がりの歪みを少し離れたところから眺めてみると、犯人の異様な動機と、そうした殺意が芽生えるにいたった経緯などが透かし見えてくるのではないでしょうか。
孤島に繰り出す理由の無理矢理感や、女子高生とオッサンのワイガヤが軽妙な筆致で描かれるという風格ゆえに、作中の仕掛けのキモとなる部分にぎこちなさを感じてしまう読者もいるかと推察されるものの、むしろ驚愕の真相となる異形な動機を逆に辿っていくことで、歪んだ構図の全体像が見えてくる、――という奇天烈な結構を採っているゆえ、リアリズムやドラマ性を重視してその歪みを一概に否定しまうのではなく、本格ミステリとしての仕掛けの、最も深い部分を歪んだ構図に重ねて読み解く、……というアクロバティックな読み方が本作にはふさわしいような気がするですが、いかがでしょう。
『≠の殺人』と同様、DNAネタに奇天烈な趣向を盛り込んで見せた逸品で、このシリーズのファンであれば安心して愉しめるのではないでしょうか。オススメ、でしょう。