ハチャメチャ(苦笑)。まさに「読むひばり」とでもいうべき型破りな展開に頭の中はクエスチョンマークでもうイッパイ、という怪作です。とはいってもツマんないかというと決してそんなことはないものの、この面白さは冷笑苦笑も含めた物語のキワモノぶりによるものであって、このあたりからして本作、かなり読者を選ぶのではないでしょうか。
物語のあらすじを纏めるのも正直アレなほど理解不能な展開でありまして、要はマリアの形をしたディルドとそれを操る黒幕に女刑事とブ女と元ヤン牧師が絡んでテンヤワンヤ、――という話。
ノッケから不可解な死に方をしたガイシャ女の檢死に刑事たちが絡んでくるものですからホラーとはいえミステリ・タッチで物語が進んでいくのかと思いきや、儚げな女子大生がガンクロのブ女にネチっこくイジメられるシーンが続いたあと、件の女の不審死に絡んでいると思しき聖母のディルドが儚げ娘の手に渡ります。
で、期待通りに彼女はディルドの力によって覚醒する譯ですけど、フツーだったらここに刑事たちの動きを同期させて暗黒面へと堕ちた儚げ娘とそれを追う刑事たちという構図に流れていく筈が、前半で呆気なく儚げ娘は御臨終となって、件のディルドはガンクロ女の手に渡ることに。
まあ、ここで一応、刑事たちがこのガンクロ女を追いかけていくのですけど、超越力を手に入れたガンクロ女はやりたい放題でなす術はなし。ここへさらに何だかよく分からないけどディルドを操っていると思しき黒幕が登場して、さらにヒロインたる女刑事は何となーくこの黒幕を前から知っていてホの字の様子。このあたりの逸話が完全にスッ飛ばされているゆえ、読者としては妄想するしかないのですけど、とりあえずそういうものなんだナーと思いながら讀み進めていくと、さらにここへ元ヤクザの牧師も登場して女刑事は彼にも何となーくホの字の様子。
ヒロインの造詣から牧師から黒幕のキャラがいっこうに見えてこないなか、読者としては手探りで物語を読み進めていくよりほかなく、そうこうしているうちにガンクロ女の力が急に失われて(何で? 饅頭を万引きしたから?)、はてはディルドの次なる獲物は誰かと刑事たちが奔走しているうちに、あれよあれよと物語はあさっての方向へとすっ飛んでいって最後はアーメンとジ・エンド。
とりあえず、女のアソコにディルドが入っていってエロっぽく悶えるシーンとかもあるし、「ぐちゅ。ねちゃり。ぐちょり。ずこずこ。ぬっぽぬっぽ」なんてお世辞にもセンスがあると思えないオノマトペも交えてそうした場面が流れてはいくものの、実際に「ぬっぽぬっぽ」となっているのが、作中ではクドいくらいにブスだ醜女だと罵られているガンクロ女ときては興奮しろというのが無理というもの。
本作がここまで破格の物語になってしまっているのは、ひとえに登場人物たちの造詣がサッパリ理解できないからでありまして、黒幕も何考えているんだかよく判らないし、牧師も牧師でいったいヒロインをどうしたいのか、そのあたりがまったく見えてきません。ヒロインもヒロインで確かに悪を成敗するという気概こそ感じられるものの、黒幕と牧師に寄せる淡い思慕は何なんだと、そのあたりの逸話がまったく語られないまま物語が急展開していくので、読者は完全に置いてきぼりとなってしまいます。
確かにこうして普通の小説として本作を読んだ場合、まったく受け入れられない作品ということになってしまうわけですけども、上に引用した「ぬっぽぬっぽ」からも明かな通り、本作はそうしたZ級的な要素にグフグフと忍び笑いをもらしながら愉しむべきで、いちいち細かいところにツッコミを入れて作品の瑕疵をあげつらうよりは、そのイタいところを愉しむくらいの余裕をもって、意味不明にして性急すぎる物語を堪能するべきでしょう。
さながら、電波如来が「恋空」の作者の頭ン中に降臨して自動手記で書いた、――とでもいうべき一作で、天然なのか確信犯なのかマッタクよく判らない作者のキャラの方が相当にホラーながら、個人的には、かくもハチャメチャな結構と投げっぱなしジャーマンなキャラ設定にエディットして出版にゴーサインを出した担当編集者の頭ン中を覗いてみたい気がします。
色々と書きましたけど、キワモノとして愉しめればそのイタさは相当に純度も高く、そうした括りで評価をすればかなりオススメできる怪作といえるのではないでしょうか。
――って書きながらジャケ帯の著者紹介を見ていて気がついたんですけど、あの超怪作「川を覆う闇」の作者でしたか(爆)。それだったらこのヘンテコぶりも納得です。作者の熱狂的ファンだったら本作も十分に愉しめると思います。