「タイム・リープ」から二年、高畑京一郎の新作が遂にベールを脱ぐ!というのがジャケ帶の煽り文句なんですけど、物語の構成としては「タイム・リープ」と比較してより單純、かつストレートなものになっています。
「タイム・リープ」は時間の分断された小片が終盤に至ってジグソーパズルのようにきっちりとはまっていき、ひとつの大きな事件が明らかになっていく、という複雜な構成が光る傑作でしたが、本作の方はこのような懲りまくった仕掛けもなく、物語の疾走感で讀ませようとしています。
決して駄作ではないのですけど、マニア向けではないですねえ。ただ主人公の意識が分断されているという設定は「タイム・リープ」とも相通じるところがあります。そしてその主人公が斷片的にしか得られていない情報から事件の全容を推理していき、最後に黒幕を暴いていくところなどは立派にミステリしていて結構いい。
川崎京介というのが主人公のひとりで、彼は
父からあずかったあるものを奪おうとする男に殺されてしまいます。その現場を偶然通りかかったもうひとりの京介、浦和京介はそのあと不可解な記憶喪失に襲われることになるのだが、……という物語で、死んだ川崎京介が浦和京介に憑依して、記憶を喪っている間、彼は川崎京介になっていて、彼は妹の亜希とともに自分を殺した男を追い、そして父が卷き込まれた事件の真相を突き止めようとします。
川崎京介の方は札付きのワルで、一方の憑依された浦和京介の進學校の優等生という設定がこれまたいかにも予定調和的なのですが、物語じたいは寧ろこのようなありきたりの構成の中で、事件の真相を突き止めていく彼らの活躍に焦点を絞って進んでいきます。
二人の京介、そして妹の亜希の廻りには父の仕事の關係者と思われる男たちが現れるのですが、そのうちの誰が父を陷れたのかというのが主要な謎。
死んでしまった川崎京介の方はとにかく突っ走ってばかりなのですが、もう一人の京介こと浦和京介の方は優等生らしくいかにも冷静沈着。最後は彼の機転の效いた活躍で事件は終息するのですが、物語の終わりが近づくにつれ、いつ憑依している川崎京介の方はいなくなってしまうのだろうと氣が氣ではありませんでしたよ。
事件の黒幕を隱す仕掛けはなかなか優れています。トリックというよりは、ミスディレクションを使った仕掛けですけど、暴走氣味の川崎京介と亜希はすっかり騙されていたみたいです。伏線の張り方もこれまたベタとはいえ、本作の作風にしてみたらこのくらいが適当でしょう。
これまた御約束通り、最後は死んでしまった川崎京介が浦和の體から消えてしまうのですが、このラストって、……何となく氣になるところです。
京介が消えてしまった時、病院で意識不明だった彼の父が覚醒するのですが、もしかして目を覚ました父って、……京介ですか? で、浦和京介の方は亜希と戀仲になったりして、……とかまあ、ここまで書いてしまってはあまりにベタなので、浦和京介と亜希の再會で物語は終わっています。ハッピーエンドではないけれど、その後の展開をほのめかした心地よいラストといえるのではないでしょうか。
青春小説としては佳作。「タイム・リープ」あの雰圍氣が好きな人だった氣に入ると思います。