2011/9/14 水曜日

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Filed under: General — taipeimonochrome @ 19:37

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2011/7/30 土曜日

墓地裏の家 / 倉野 憲比古

Filed under:  倉野憲比古,小説 — taipeimonochrome @ 23:50

20110730.jpg「ああン? 今年のダメミスの本命? そんなの覇王の『パワードスーツ』に決まってるじゃねえか! まだ読んでないけど」というかんじで、一部の好事家の間では『スノウブラインド』でデビューした倉野氏はダメミス作家と認定されているわけですが、個人的には本作、本格ミステリとホラーの融合を戦略的に行った逸品として普通に、というか、かなり愉しめてしまいました。

物語を簡単にまとめると、吸血鬼を神と崇めるキ印一家で連続の人死にが、……という話なのですが、そのタイトルからも察せられる通り、舞台が日本でありながらフルチ御大リスペクトの雰囲気タップリな風格も見事なら、登場人物たちのどことなく品格の感じられるキャラ設定など、何となーく飛鳥部ミステリも感じさせるところにまず注目。

特に今回、処女作と比較しておっ、と思ったのはその絶妙なユーモアセンスでありまして、下品には決して転ばない笑いのセンスが素晴らしい。このあたりもまた飛鳥部ミステリを彷彿とさせるところであるとともに、クラニーのファンなども大いに愉しめるのではないでしょうか。

いかにもな怪奇趣味溢れる物語世界に、奇妙な宗教、さらには探偵側の三人の盤石なキャラ設定とも相まって、一家族の中で自殺なのかコロシなのか判然としない人死にが続発して、――というコード型本格のスタイルを踏襲しながらも、物語の展開がダレることはありません。特に探偵側の三人が喫茶店でワイガヤをするシーンは、ホラーから心理学といった学術蘊蓄も絡めてなかなかに読ませるところでありまして、探偵のほのかな恋物語に最近流行のあるブームを重ねて漫画チックな結末を見せているところも秀逸です。

実際、こうしたホラー調の物語世界や、登場人物たちの会話といった、普通小説の評価軸をもってしても十分に愉しめてしまう本作、じゃあ、ミステリとしてはどうなのよ、ということになるわけですが、奇妙な一族の連続自殺事件という結構をとりながらも、この物語が本格ミステリであることを主張している以上、読む側としては当然その自殺も殺人に違いない、という先入観を持たれるのは必定でしょう。

実際、密室状態にして凶器が消失しているという現場の様子から、針と糸の懐かしトリックによってアッサリと件の密室を解明しつつ、ではその通りかとトリックの裏取りをすると必ず謎の御札が置かれているあたりから、すわ後期クイーン問題が云々とコ難しい話にいってしまうのかと身構えてしまうも没問題。そうしたところはあっさりとスルーしつつ、探偵がワイガヤの中で語っていたペダントリーによって異形の構図が開陳される謎解きはかなりのもの。

探偵側の三人が事件の謎解きを経たあと、三者三様の解釈を行って物語は幕となるのですが、これがまた三人の人物設定とも相まって素敵な読後感を残します。どの解釈を受け入れるかは読者に委ねられているともいえるわけですが、フルチ御大的な崩壊の間際に現出した怪異を幻覚ではなく現実のものだとすれば、それは吸血鬼の存在を受け入れるしかなく、真相はホラーだったということになるわけですが(以下反転)、……とはいえ、この怪異を目撃した探偵側の三人もまた、犯人と操られていたものが発症していたと探偵が喝破した「共有精神病性障害」の状態にあったという解釈も可能のような気がしてきます。

つまり「妄想を中心とする精神障害を持っている人から、別の人に精神症状が”伝達、感染”」したという探偵の説明通りに、探偵側の人間もまた、この異様な事件に巻き込まれるうち、一族たちの妄想である吸血鬼の実在を、気がつかないうちに「共有」してしまっていたのではないか……そう考えると、ホラーとして閉じていたこの一族の狂気と妄想は、探偵という本格ミステリ側の人物の登場によって、今回の怪死事件へと顯現し、さらにまた探偵たちも「継発者」となって、閉じていた妄想をさらに深化させてしまったという見方もできるのでは、と思うのですが如何でしょう。

それはまたホラー的な物語世界に、「探偵」を含めたガジェットを導入することで、ホラーの風格が本格ミステリを浸食し、本格ミステリの風格がホラーとしての異形性をさらに際立たせる効果をもたらしている本作の風格にも重なります。三津田ミステリとはまた違った視点からホラーと本格ミステリのハイブリットを目指した本作、クラニーのファンに強くオススメするとともに、さりげなく三津田、飛鳥部ミステリのファンにも推奨しておきたいと思います。

2011/7/29 金曜日

生霊の如き重るもの / 三津田 信三

Filed under:  三津田信三,小説 — taipeimonochrome @ 22:47

20110729.jpg刀城シリーズ最新作。ホラーの怖さとと本格の仕掛けをコンボで両方愉しめるという期待通りの一冊で、堪能しました。

収録作は、怪異の足跡の謎という定番が消去法推理の果てにホンモノの怪異を引き寄せてしまう「死霊の如き歩くもの」、「天魔の如き跳ぶもの」、三角頭巾の屍蝋復活に奇妙な死体を絡めた構図が反転推理を見せる「屍蝋の如き滴るもの」、あの時代を絡めたネタ投入に犬神家を思い出してニヤニヤせずにはいられない表題作「生霊の如き重るもの」、子供の消失というこれまた定番の謎が、推理によって解体された結果として凶悪ネタを呼び起こす「顔無しの如き攫うもの」の全五編。

いずれもホラーな背景に大ネタを投入して読者を唖然とさせた『凶鳥』系というよりは、いくつもの細やかな仕掛けを交差させて事件の複雑な構図で魅せてくれた『水魑』に近い風格で、『水魑』はその評価に相反してちょっと長いかナ……なんて印象があった自分としては、このほどよくまとめられた収録作はかなりツボでありました。

大ネタがないとはいえ、足跡や人間消失を推理していく過程で、次々と探偵の口から語られては捨てられていく推理のクオリティもまたかなりのもので、冒頭の「死霊の如き歩くもの」から、そのトリックについては登場人物に「何とも手の込んだことを……」と呆れさせるくらいのネタを投入しつつ、そうしたネタひとつで終わらせず、謎がそのかたちで現出するまでに関わっていた人物たちの動きを精査していくプロセスも素晴らしい。

また、ホラーと本格ミステリのハイブリットという点については、探偵が真相へ気づくためのきっかけとなったある現象が、推理によってすべての謎が解体された結果としてホラーへ転じてしまうという、皮肉にも見える幕引きがいい。

「屍蝋の如き滴るもの」は、怪異の見てくれだけを取り上げてれば、かなり怖い一編で、宗教めいた背景にミイラとホラー的なネタを最大投入しつつ、死体に装飾されていたあるものの謎も含めて、ここでも可能性の消去を繰り返していくうちに明らかにされていく推理の見せ方がスリリング。

怪異は事件の謎解きによって解体されたかと思いきや、……というネタが最後にシッカリと織り込まれているのですが、こちらは探偵が明かした現実的な解を取るか、それともホンモノの怪異だったのかという含みを持たせつつ、最後の最後でホラーへ落としてみせる潔さ。

「生霊の如き重るもの」は、時代背景をしっかりと絡めて犬神家を想起せずにはいられない登場人物の配置からしてニヤニヤしてしまうのですが、ある人物の名前を騙っているニセモノをあぶり出すというシンプルな謎ながら、人死にも絡めて疑わしき人物の行動を精査していく過程で犯人と被害者、ニセモノとホンモノが二転三転していく推理がたまりません。人死にの謎に付与される犯人と被害者、そしてホンモノとニセモノという対称性を前面に出した誤導を効かせつつ、事件の構図に独特の風習も絡めたこのシリーズならではの真相がいい。探偵の一人語りで推理ならぬ解釈を二転三転させながらも、この対称性が功を奏してその外連も明快です。

個人的に一番キたのが「顔無しの如き攫うもの」で、推理による真相の開示によって謎解きが完結すると同時に、それが逆に怪異の存在を明らかにするという結構が怖さを醸し出していた前の数編に比較すると、これだけは趣がやや異なります。シンプルな人間消失でありながら、その背後にある種の事件性を匂わせつつ、探偵の推理はこれまた様々な解釈を開陳しながら可能性を次々と消去していくところは期待通り。

正直、ここで捨てられる可能性のいくつかも相当に魅力的なのですが、最後の最後に明かされる消失のネタは相当にアレ。確かに幽霊とかの類いは怖いケド本当は、……という、ウップオエップな真相とそれをさらに上回る鬼畜な所行だけでもう唖然。『「超」怖い話』を読んでいたらいつの間にか『東京伝説』にすり替わっていた、みたいな捻れがもたらす恐怖は相当のもので、背筋がゾーッとなる夏の怪談としても大いにオススメしたいところです。

全体的に大仕掛けよりも精緻な構図の構築と、本格ミステリーにしてホラーの趣向を活かした好編揃いで、シリーズものであることを意識せずとも手に取ることができるという点で、『水魑』とか評判イイみたいだけど、ちょっとなァ……なんて躊躇している三津田ミステリのビギナーにも推薦できる一冊といえるのではないでしょうか。

2011/7/22 金曜日

怪談実話系 4―書き下ろし怪談文芸競作集 / 加門七海 福澤徹三 中山市朗 伊藤三巳華 小池壮彦 安曇潤平 松村進吉 牧野修 岩井志麻子 工藤美代子

Filed under: 小説 — taipeimonochrome @ 20:51

20110722.jpgずっと積読していた怪談ものの棚卸しも兼ねてイッキ読み。前回のような奇抜な試みはありませんが、いずれもかなりのクオリティで堪能しました。収録作は、ささやかな怪談話を通じて、幽霊を見てしまう家族の中の私が浮上してくる工藤美代子「霊感DNA」、それぞれの怪異を耳にしたものだけが見てしまう連関がおぞけを誘う中山市朗「怪談BAR3」。

これまた怪異の数珠つなぎの中からおぞましき事件の因果が立ち現れる結構が秀逸な福澤徹三「数珠の糸」、ヤバいトンネルで近道してやれという好奇心が隧道の因果話へとなだれ込む安住潤平「隧道」、都市伝説、陰謀、闇の組織とヤバい事件と狂気の混沌が『怖い噂』フウの超弩級の怖さを引き寄せる、小池壮彦「春紫苑の憂鬱」。

達磨に祟られた因果話の壮絶コンボ、伊藤三巳華「姫達磨」、とある喫茶店の怪異にセピア色の詩情さえ漂う、加門七海「浅草純喫茶」、怪談を語り「たい」もののメンヘラ地獄と心の闇が『東京伝説』めいた狂気へと収斂していく異色作、松村進吉「私の話」、怪異の様態の独創性という点では収録作中ピカ一な怖さを誇る、牧野修「これは怪談ではない」、完全シリーズものと化した生き霊女のその後、岩井志麻子「あの女のその後」の全十編。

個人的に一番ツボだったのが「春紫苑の憂鬱」で、確か2に収録されていた「浜辺の歌」もかなりのお気に入りだった自分としては、こちらも実話系を擬態した(?)「そういう話」が好きな人にはタマらない一編といえるのではないでしょうか。戸川昌子女の某作みたいな胎児ネタの気持ち悪さに、女の狂気、さらには軍部の闇から陰謀から、『怖い噂』のエッセンスをギュッと濃縮させたようなネタの大盤振る舞いも素晴らしければ、点描される異様な逸話を語り手が探偵となって推理していくことで、それぞれを繋げていく展開がスリリング。そして全編に漂うこの尋常でない緊迫感と見えそうで見えないこの世界の向こうにある深淵を覗き見るような雰囲気はまた、『アムネジア』をも彷彿とさせます。

「怪談BAR」は、それぞれに語られた複数の怪異を聴き、そこに連関を見いだしてしまうことの恐怖を描き出したという点で、「春紫苑の憂鬱」と趣向が似ています。特に冒頭にさらりと語られる事故死とあるものとの偶然の連関は、因果が語られず宙づりにされているからこそ怖いという点では断然好み。幽霊が出てきてゾーッとなっても、実はその幽霊ってのがそこで亡くなった女のアレで……というかんじの因果話の定型へと落ち着いてしまうのはちょっと怖くないナー、なんていう御仁でもワククワできる結構も素敵です。

そうした点では「数珠の糸」も、バラバラに見えた事件と出来事が次第にある事件へと収束していく結構で、カットアップされたようなぎこちなさが、またどこが落ち着かない不穏な雰囲気を醸し出していてこれも怖い。

これとは逆に「語る」ものの立場から、それを聞きたがるものへと恐怖を照射してくる趣向がイヤ怖いのが「私の話」で、私の怪異を聞き取ってそれをネタにして本を書いている知り合いが云々、……という話だから、また例によってさりげない怪談のコンボで一編を仕上げた定型ものかと油断していると、冒頭に語られたちょっとイヤ怖い怪異が狂気を交えて奇妙な捻れを見せていきます。これが怪異によってもたらされた「現象であるべき」という断定がかえってリアルな怖さを立ち上らせるという転倒へと至る幕引きは実話怪談的な怖さとはかけ離れていつつも、イヤ怖いという点では個人的には「春紫苑の憂鬱」と並ぶお気に入りです。

怪談といっても、まあ、たいていは髪の長い女が暗い夜道にボーッと立っていて、……なんてカンジで、本格ミステリの謎の様態と同様、怪談における怪異にもある種の定型があって、これが最後に事故で死んだの殺されただのという因果話に落ちたりすると妙に興ざめしてしまうという昨今、怪談においても怪異の様態の独創性が求められているのでは、……なんて感じてしまうわけですが、「これは怪談ではない」でさらりと描かれるあるものの意外性は、牧野ホラーの幻視にも通じる恐ろしさ。あまりに不意打ちでこのシーンが出てきたので、思わずウッと声をあげてしまいましたよ。

「浅草純喫茶」は、何となく岡部えつ女史の「メモリィ」にも通じる詩情を称えた美しい一編。怪異が因果へと落ちるのを抗うように、ある怪異を全体として見たときに因果を抛擲したように見える絵解きが、この霊的存在を詩美性をより際立たせることになっている趣向が素晴らしい。

個人的には小池氏の「春紫苑の憂鬱」だけでも、『怖い噂』フリークだったら即買いという一冊ながら、その安定感ゆえに前三作のファンであれば安心して愉しむことができるのではないでしょうか。

2011/7/19 火曜日

新宿遊女奇譚 / 岡部 えつ

Filed under:  岡部えつ,小説 — taipeimonochrome @ 21:02

20110719.jpg傑作。待ちに待った岡部女史の新作で、……といっても色々と忙しくてスッカリ積読していたわけですが、ちょっと気分を変えるために本格ミステリよりは怪談を、ということで手に取った本作、期待を遙かに上回る傑作好編が揃った一冊で、堪能しました。

収録作は、おかめの面をかぶった女の幽霊とその業を幽玄の技法で艶やかに描き出した「おかめ遊女」、見世物小屋で見かけた曰くアリの美少女人形に対する隠微な行為を覗き見る因業譚「少女人形」、キ印女に声をかけたばかりに深淵を覗かされることになった女の恐怖「壺」、冒頭の「おかめ遊女」の伏線とともに、新宿という土地の磁場と宿業を見事に活写した「顔のない女」の全四編。

岡部小説といえば、個人的には岡本綺堂と並ぶその文体の魅力がまず挙げられるわけですが、音読にも十二分に耐えうる絶妙なリズム感と、語られるその場の空気までをも読者にありありと感じさせる文章の素晴らしさは本作においてますます磨きがかかっています。

冒頭の「おかめ遊女」における怪談語り、「少女人形」の口上、「壺」や「顔のない女」の自分語りなど、いずれも登場人物がそのものの因業を語って聞かせるわけですが、まずこの語りを読み進めていくだけで、耳許に語り手の声が聞こえてくるようにも感じられる臨場感が素晴らしい。

「おかめ遊女」では、決して美人とはいえないダメ遊女が、拙いながらも、自分が見たという幽霊の話を客に聞かせるところから始まるのですが、いま目の前にいる客の挙措を意識しているかのような緩急自在の語り口に、何だか自分もその場の客のひとりでいるように錯覚してしまいます。「……どうしたらそんな色男になれるのか、気になるのでしょう。いいでしょう、今夜は特別にお教えいたします」と客の興味をひきつつ、そのあとにいい放った言葉の鮮烈さなど、その巧妙な語りの魅力をあげればきりがありません。

彼岸との境界を意識した王道の幽霊譚にして、その境目を超えようとする男女の情念をしっとりと描き出した「おかめ遊女」は、舞台は昔ということもあって、まだホンワカした雰囲気に満ちているのですが、落ちぶれたバブル女のアレなリアリズムも添えて人間の暗部を隠微に活写してみせた「少女人形」からついに社会批評を交えた岡部節が炸裂、口上が始まるや、上にも挙げた抜群の臨場感をもってくだんの艶やかな人形の因業が語られていきます。

中年女の悲哀というよりは、バブル世代の女の因業というフウに、特定の世代の女の奈落と個人的には感じられる岡部ワールドのヒロインではありますが、「少女人形」の彼女もダメんずと判っていながらそんな男とズルズルと関係を続けてしまうダメ女。そんな女の業を容赦なく描き出してみせる筆致にニヤニヤしていると、いつのまにか「あちら」の世界の深淵を覗き見てしまうという展開もまたスムーズ。

「少女人形」に描かれる隠微な人形嗜好は、ミステリ読みからすると、乱歩的な魅力にも感じられるわけですが、乱歩的といえば、続く「壺」はさながら「押絵と旅する男」。とはいえ、あちらが幻想の風格を大きく前面に押し出していたのに対して、こちらは怪しいキ印老婆の恐ろしさが際立つ恐怖譚で、闇に引き込まれていくダメヒロインの奈落への足音が次第に大きくなっていくサスペンスフルな後半の展開がたまりません。

特にキ印女が語る壺の中身がアレするシーンは、本編収録中一番の怖さ、――というか、個人的には自分が読んだ怪談の中でも十指に入るほどの恐ろしさで、蒸し暑い夜にゾーッとするにはうってつけの一編といえるのではないでしょうか。

読み聞かせるという、語感のなかでは特に「耳」を意識した技法は、特に本作で強く感じられるところであり、本編において壺がカタカタと音をたてるところや、続く「顔のない女」の下駄を大仰に鳴らしてそぞろ歩くシーンなどが印象に残ります。「顔のない女」は、「壺」にも通じる狂女の存在を引き継ぐかたちで始まり、それがバブル女の奈落と重なりを見せていくという展開ながら、「壺」の自分語りが最高の恐怖を引き寄せたのに相反して、「顔のない女」では現代の女の救済が描かれているというコントラストが素晴らしい。

「おかめ遊女」と「顔のない女」が、おかめの面をかぶった幽霊という存在によって繋がることによって、それがタイトルにもある「新宿」という異世界の幻視と磁力を明らかにしてみせる結構も秀逸で、一冊の本としての構成もまた完璧。怪談として、そして小説としての「語り」は処女作『枯骨の恋』からよりいっそう洗練され、艶やかに、ときには凍りつくほどの臨場感をあやかしの音とともに描き出してみせる物語世界は、怪談マニアはもちろん、自分のような幻想小説ファンも大いに愉しめるのではないでしょうか。オススメでしょう。

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