最近あまり台湾ミステリネタを取り上げていないのですけど、話題がないというか、まア、水面下では色々と話が進んいるようではあるものの、台湾のミステリ作家の作品が出版されないという状況においてはここで取り上げるネタもないし、……というようななかで昨年のVol.1に續いてリリースされた「謎詭」の第二號を今日は取り上げてみたいと思います。
小知堂文化の「野葡萄」が休刊、さらには中國語圈のEQMMと鳴り物入りで発刊となった「Mystery」も音沙汰なしという寂し過ぎる状況において唯一、氣を吐いているのが獨步文化で、前回は「「好看」、「必看」の日本推理六十作」と題して、面白いマスト本六十作を取り上げたのに續いて、今回は「40本旅行主題推薦好書物」と旅ネタのオススメ本を四十作、紹介しています。
で、その作品リストをざっと挙げると以下の通り。
1. 点と線 / 松本清張
2. 幽霊列車 / 赤川次郎
3. 終着駅殺人事件 / 西村京太郎
4. 出雲伝説7/8の殺人 / 島田荘司
5. 風のターン・ロード / 石井敏広
6. そして誰かいなくなった / 夏樹静子
7. 月館の殺人 / 綾辻行人
8. 倫敦と漱石ミイラ殺人事件 / 島田荘司
9. カディスの赤い星 / 逢坂剛
10. 人狼城の恐怖 / 二階堂黎人
11. 夜光虫 / 馳星周
12. 仮面の島 / 篠田真由美
13. マレー鉄道の謎 / 有栖川有栖
14. 五十万年の死角 / 伴野朗
15. 運命の八分休符 / 連城三紀彦
16. 孤島パズル / 有栖川有栖
17. 今夜は眠れない / 宮部みゆき
18. 三月は深き紅の淵を / 恩田陸
19. リミット / 野沢尚
20. 砂の器 / 松本清張
21. 異邦の騎士 / 島田荘司
22. 横浜秘色歌留多 / 山崎洋子
23. 火車 / 宮部みゆき
24. 白夜光 / 東野圭吾
25. 永遠の仔 / 天童荒太
26. 片想い / 東野圭吾
27. クライマーズ・ハイ / 横山秀夫
28. 死神の精度 / 伊坂幸太郎
29. 枯草の根 / 陳舜臣
30. アルキメデスは手を汚さない / 小峰元
31. 人間の証明 / 森村誠一
32. 離婚しない女 / 連城三紀彦
33. 北の夕鶴2/3の殺人 / 島田荘司
34. 仙台で消えた女 / 多岐川恭
35. 眠れぬ夜の抱いて / 野沢尚
36. 魍魎の匣 / 京極夏彦
37. 蒲生邸事件 / 宮部みゆき
38. オーデュポンの祈り / 伊坂幸太郎
39. 黒と茶の幻想 / 恩田陸
40. 神のロジック 人間のマジック / 西澤保彦
旅ということであれば、水上勉の「飢餓海峽」とか、東京五色不動案内ということで「虚無への供物」とか、色々とリストの中にいれてもらいたかった作品が頭を過ぎるものの、そこはそれ。
本作の資料的價値としてまず注目なのが、卷頭に織り込まれている、傅博こと島崎博御大が作成された「社會派推理小説30年大事紀」でありまして、1957年2月に松本清張の短篇集「顔」が第十回日本探偵作家クラブ賞を受賞、社會派ミステリの原點ともいえる作品「点と線」が月刊「旅」に連載されたことと、「眼の壁」の「週刊読売」への連載を「日本社会派推理小説序幕」として、そのはじまりとしているところから1986年まで、その年の推理文壇の状況の説明などを添えつつ、各の作品を取り上げています。
島崎御大はそのほか、「旅途上的推理小説」と題して、泡坂妻夫氏の亜愛一郎シリーズの一冊、「亜愛一郎の狼狽」を取り上げ、収録されているそれぞれの作品のあらすじを紹介しています。ちょっと吃驚したのは、亜愛一郎シリーズがまだ台湾では翻訳されていなかったということで、やはり長編に比較して短編集は讀者のウケが惡いというのは日本と同じなのかなア、なんてことを考えてしまいました。
「謎詭」の方向性で評價できるのはその硬軟を織り交ぜた特輯の巧みさで、「「帯著日本推理小説去旅行」――獨步嚴選四十作」と旅をテーマに据えたブックリストや、「十大刑警超比一比」と題して、鬼貫から古畑任三郎まで、探偵役となる刑事をイラストも添えて紹介してみるといった軽さを前面に出した特輯記事を組む一方、土屋隆夫の特輯を組んで、詹宏志が土屋隆夫氏を訪ねたエッセイや、作品リストで大々的に土屋御大の魅力に迫ってみたりといった硬派なところもあったりするでしょう。
そのほかの記事としては、「白夜行」の特輯、本格推理小説ベスト10や「このミス」など、年末恒例のベストテンなどを「台日推理排行榜」と題しての紹介、さらには直木賞ネタなども添えた「日本推理最前線」など。あと、日本との絡みでは、ここでもたびたび紹介している既晴氏がミステリー文学資料館を訪れたときの紀行文も掲載されています。
「日本推理最前線」のなかでは、張筱森女史が「新本格20年――編輯宇山日出臣的工作」記念座談會雑感」の後段において、台湾ミステリ界に宇山氏のような優秀な編集者を渇望するという感想に、大きく頷いてしまいましたよ。
版権料の高騰が深刻な問題となって、台湾における日本のミステリの出版にも俄に暗雲が立ちこめている状況とはいえ、道尾秀介の翻訳にも目処がたってきたような声も聞かれるし、日本のミステリもまだまだいけるかな、という氣はするものの、これに併せて台湾のミステリ作家の創作を支えていくような仕組みを作家とともに出版社、編輯の人間が考えていかなければならない譯で、今後はやはりこのあたりが課題でしょうか。小知堂が最近はアレなんで(鬱)、個人的にはミステリに造詣が深い編輯が揃っている獨步文化が将来、このあたりで何か大きな花火を打ち上げてくれないかなア、と期待してしまうのでありました。