メフィスト出身にもかかわらず、地味で今ひとつ盛り上がらないのが残念な輪渡氏のこのシリーズ。今回もまたまた地味ながら堅実な伏線の技巧と落ち着いた怪談話とを絶妙に合わせた逸品で、堪能しました。
物語は、幽霊を見た長屋の子供の連続不審死を軸に、タイトルにもある狐憑きの娘の曰くや、ところどころに挿入された怪談話が見事な連關を見せていき、――という話。人形寺での肝試しなど、一つのエピソードとしても怪談として愉しめるものにもミステリ的な謎解きをしてみせるのは勿論のこと、このシリーズならではの怪談話や作中の挿話が背後に隠された構図へと繋がっていくという構成が秀逸です。
コロシが定番のミステリという視点から読んでいくと、上にもまとめた通り、長屋の子供の不可解な死にどうしても眼がいってしまう譯ですが、講談社のサイトとかを見ると、
今回のお話は、腕は立つのにお化け嫌いな甚十郎に舞い込んだ縁談の相手が、なんと狐憑きの噂がある弓枝。甚十郎は、怖がりながらも何とか弓枝の力になろうとしますが……。甚十郎の純情一途な男っぷりに、思わず胸がキュンとする一作です!!
今フウに言えば「草食系」ともいえる甚十郎に萌えてほしいッ! どうかどうか、伏線だの謎解きだのそういう細かいところでネチっこい批判を浴びせるロートルの本格ミステリ・マニアよりは、若い「歴女」のあなたたちに読んでいただきたいのですッ! という担当者の気合いがビンビンに伝わってきます。
実際のところ、今回は前作「無縁塚」とはちょっと毛色が違って、縁談話が持ち上がった甚十郎の出番が多く、草食系男子の好きな歴女も萌えることはできるかと推察されるものの、こうした「萌え」の要素を挿入するための縁談話にも当然、このシリーズの風格ならではの裏がある譯で、長屋の子供コロシよりは狐憑きの娘を前面に押し出しているところにも意想外な連関が隠されている結構は面白い。
個人的には娘と長屋の子供コロシについては何となーく予想できるものの、甚十郎が巻き込まれたもう一つの出来事がそれらの挿話をすべて繋げるためのフックになっていたところは結構意外で吃驚してしまいました。縁談話云々についてはホンワカムードに終わる筈もなく、今回は「無縁塚」と違って、ややダークなオチも交えて幕とするところも含めて、このシリーズの中では本作はやや異色作というか、そんな読後感を抱かせます。
個人的には微笑ましいオチを凝らした「無縁塚」の方が好みではあるものの、キャラに注力したアピールもしやすい本作の方が、甚十郎様萌えッ!とかの餌をバラまいて歴女を釣り上げるには好適かと推察されるものの、その一方で時代ものの怪談にチャンバラ的要素もシッカリ添えた風格から、やはり自分よりももっと年上の、ロートル時代劇ファン、――簡単にいうと電車ン中で時代文庫を読んでいるような層にアピールした方がもっと認知度が高まるのではないかナ、という気がします。そういう意味では処女作の「掘割で笑う女」が今回、文庫化されたのは嬉しい限り。これをきっかけに自分のようなメフィスト経由で氏を知ったファン以上に読者層が拡がっていけば、と願ってしまうのでありました。