前回は札幌のプログレバンド、プロビデンスの「伝説を語りて」だったので、今回も日本のプログレの名盤の一枚を紹介してみたいと思います。
どれにしようか激しく迷ってしまったんですけど、現在も活動している、ということで、まずはアストゥーリアスのファーストである本作を。
アストゥーリアスは現在に至るまでに四枚のアルバムをリリースしています。最新作は前三作とはかなり毛色を異にしたアコースティックサウンドなのですが、キングレコードからリリースされた三枚はプログレという狹いジャンルを離れても立派に名盤として通用する素晴らしい作品ばかりです。
その昔、マーキーがまだプログレ雜誌だった頃、ザバダックのライブのレポートが掲載されておりまして(上野洋子のれん分けのライブだったか記憶が曖昧)、その時にザバダック周辺のアーティスト、みたいなかたちでアストゥーリアスが紹介されていたのを記憶しています。本作にも元ザバダックの上野洋子が参加しておりまして、アルバムの最後の曲である大作「サークル・イン・ザ・フォレスト」で泣きたくなるくらいに素晴らしい歌聲を聞かせてくれています。
アストゥーリアスは最近になって復活を果たし、アコースティックを基調としたサウンドで活動を續けているのですが、現在のアコースティック・アストゥーリアスでは音的にも大きく異なります。本作のジャケ帶の裏には紹介文がありましてそれによると、
伝説のグループ”新月”のギターの津田春彦とキーボードの花本彰、ザバダックの上野洋子等を從えて展開するマルチ・プレイヤー、大山曜のプロジェクトがアストゥーリアスだ。北欧の森林や空の様に透き通ったサウンドは、マイク・オールドフィールドの世界に近く、また、プログレ・ファンはもとより、ECM系のニューエイジ・サウンドとして、一般の方にも極上のBGMとなるだろう。それにしても”流氷”は美しいナンバー——。
新月なんていったって今のひとは知らないですよ。確かに本作で聽くことが出來る花本のギターは新月っぽい伸びのある音なんですけど、全体の雰囲気はやはりアストゥーリアス以外の何者でもありません。大山がコンピュータ・プログラムからシンセサイザー、ギター、ベース、パーカッションを操るマルチプレイヤーであることから、ことアイトゥーリアスの音を表現するときにはマイク・オールドフィールドが引き合に出される譯ですが、半分は當たり、半分は外れといったところでしょうか。
例えば本作の冒頭を飾る「流氷」は當に名曲と呼ばれるふさわしい傑作なのですが、このピアノと伸びやかなギターが奏でる旋律は非常に日本的で、KENSOのセカンドなどに見られるようなものとは異なるものの、この敍情的な雰囲気は紛れもなく和、でしょう。マイクのアルバムでは決して聽かれることのないものです。
續く「クレアヴォヤンス」は出だしからして「流氷」とはまったく違った雰囲気なのですが、ここでは津田の新月フウのギターが印象的。
「エンジェル・トゥリー」は甘甘のシンセとたおやかなアコースティックの調べがこのテの曲では王道をゆく雰囲気を釀し出しています。
「タイトープ」も「クレアヴォヤンス」と同樣の雰囲気を持ったノリのよい一曲です。いずれもアンサンブルと流れるような展開が小氣味良い曲ですが、ときおり顏を覗かせる和風の旋律が印象的ですねえ。
そしていよいよ大作「サークル・イン・ザ・フォレスト」な譯ですが、20分以上の大曲でありながら、プログレの組曲などに見られる派手派手しい展開はありません。冒頭からピアノとシンセの甘く美しい調べが暫く續くと、三分半を過ぎたあたりから雰囲気が變わり、そこに精緻なギターの音が重なっていきます。そしてギターの荒々しい旋律へと變わり、いよいよ上野洋子の美しい聲がすっと滑り込んできて音は再び一轉します。
シンセの音はコンピュータで織り込まれたように無機質な雰囲気なのに、そこへ上野洋子の美聲、そして津田のギターの音が加わると、さながら魔法がかかったように魅力的な旋律へと變じる様がこの作品の特徴でしょうか。
この曲は15分を過ぎたあたりからの展開が個人的には一番ツボでして、靜寂のなかを幾重にも重ねられたキーボードの音にリズムが加わり、次第次第に盛り上がっていくところなど、マイク・オールドフィールドでいうと「オマドーン」の第一部に近いですねえ。そして上野洋子の声と津田のギターまでもが加わり大団圓を迎えるラストのクライマックス。更にはその餘韻を湛えながら、再び靜寂のなかへと音が消失していくところも含めて、當に完璧な構成が光る名曲といえるでしょう。
しかし呆れたことにこんな名盤がアマゾンで檢索すると絶盤みたいなんですよ。いったいどうなっているんだと。もっとも二作目「ブリリアント・ストリームス」やサードの「クリプトガム・イリュージョン」は手に入るようなので、本作も近いうちに再販されるんでしょうか、というか、しなきゃダメですよ。こういう名盤が後世に残されなくてどうするんだ、と聲を大にして主張したいのでありました。