サードの「吉他手」から「幾米地下鐵音樂劇原聲帶」「精選CHEER」、そして最新作となる「華麗的冒險」のレビューは書いていたんですけど、その前のファースト、セカンドがまだのようだったので、まずは陳綺貞のセカンド「還是會寂寞」を取り上げてみたいと思います。
サード「吉他手」はそのタイトルがほのめかしているように、ギターの音を全面に押し出してロック的なアプローチを突き詰めていった傑作でありましたが、本作セカンドの完成度もなかなかのもので、ファーストの持っていた靜的な雰囲気とサードのロック的な部分の雙方を併せ持った素晴らしいアルバムです。
最初を飾る「越洋電話」はファーストの作風を受け繼いだ曲で、ギター一本で何処か寂しげに歌う陳綺貞の聲が印象的。アコースティックギターの彈き語りは彼女の獨壇場でしょう。
續く「我的驕傲無可救藥」はギターの渇いた旋律から始まりますが、その裏で鳴っているハモンドがいい。これが七十年代ロック的な雰囲気で全体を盛り上げてくれています。個人的には本アルバムの中では一番好きですかねえ。サビへと續くところでマイナー調のハーモニーを聽かせてくれるところがツボなんですよ。
タイトル曲にもなっている次の「還是會寂寞」は良質なポップスのトーンをバックに彼女が落ち着いた聲で歌い上げる一曲。ところどころでさらりと入るギターがいい味を出しています。
「下牛三點」は惚けたような可愛い聲で歌うポップスで、この曲の裏でうっすらと鳴っているハモンドが雰囲気を出しています。間奏部分でハミングとともに響くキーボードも何処か七十年フウですよ。
「温室花朶」は冒頭ストリング風の音で奏でられる室内樂的な雰囲気の旋律が終わると、つま彈かれるギターに彼女の落ち着いた歌聲でしっとりと歌われる佳曲。
「午餐的約會」は「一、二、三、四……」というリズムとりから始まるこれまた惚けた感じの曲。打ちこみっぽい單純なリズムに合わせて淡々と歌われるこの曲には何となく八十年代的な空気が感じられます。
「等待」は一轉してギターのカッティングから始まるノリのいい曲。ギターもドラムもロックの方へ傾いており、當に本作セカンドの雰囲気を代表する曲といえるでしょう。このロック的なアプローチを更に推し進めてサードへと至る譯です。
「慢歌3」はブラスとドラムが奏でるムードジャズ的な旋律で始まります。この曲はファーストの後半に収録されていた曲群の系譜に属するものといえるでしょう。ファーストの歌曲と異なるのは、エコーは控えめに、臨場感を出すようなアレンジになっているところでしょうか。
「告訴我」もピアノの音をバックに切々と歌われる名曲。ピアノに併せてベースがメロディを奏でているところがちょっと面白い。やがて涼しげなギターの音が入ってくるのですが、何となくガブリエルが脱退した後のジェネシスっぽくないですかねえ、このアレンジ。サードでも感じたんですけど、良質のポップスが持っているあの空気感がこのアルバムにも濃厚に感じられます。
「慢歌1」は「還是會寂寞」と同じテーマをアレンジした一曲。優しげなストリングスの音から始まる冒頭、他の曲と違って若干陳綺貞の歌うキーが低いような。ファーストのストリングに對するアプローチに、このアルバムらしいロック的なアレンジをうまく併せた雰囲気がいい。
そしてこのアルバムを最後を飾る「靈感」。ギターの音だけをバックにしずしずと歌う彼女の歌聲が心に沁みる一曲です。
というかんじで完成度は非常に高いです。自分としてはサード「 吉他手」のロック的な雰囲気を推しますが、良質なポップスを極めたというかんじの本作の方がいい、という人もたくさんいるでしょう。いずれにしろ陳綺貞のファンに限らず、素晴らしいポップスの作品を所望の方には大推薦のアルバム。