前回は、札幌に行ったおり札幌駅はJRビルのイベントで耳にした西川祐美のアルバム「恋路」を取り上げたので、今日は北海道絡みということで、札幌のプログレバンド、プロビデンスについて書いてみようと思います。
クライムレーベルから90年代にリリースされた本作は、アトールのクリスチャン・ベアも參加した超強力なアルバムでして、収録されている四曲全てをキーボードの塚田円が作詞作曲をしています。
しかしこのバンドで際だっているのは絶妙なアンサンブルで、ゴリゴリのフェンダーベースが勇ましい小野さとし、ロック魂炸裂の広瀬泰行のギター、そして曲展開のキメのところで必ず素晴らしい技の冴えを見せてくれる杉山雄一など、個人技を見せつけようと思えば好きなだけヤリまくることだって出來るだろうテクニックの持ち主たちだというのに、敢えてそういったマニア受けの路線を避け、巧みな曲展開とアンサンブルだけでブログレ好きを叩き伏せてしまうような曲を聽かせてくれるのですよ。
そんな四人のノリノリな演奏をバックに、和テイストのキンキンなロック歌唱で盛り上げてくれるのがボーカルの久保田陽子。高音を維持しながらまったくブレることのない歌唱法は見事というほかなく、當事の和プログレにおけるボーカル女王では、西の大木理沙、北の久保田陽子といったかんじでしょうか。
一曲目の「ガラテア」からして14分以上の大曲。いかにも當事の和ブログレっぽいキーボードとギターのアンサンブルから一転して、久保田陽子のボーカルが切り込んでくると、小野さとしのゴリゴリベースが歌う歌う。久保田陽子の歌聲に氣をとられて普通にさらりと聽けてしまうんですけど、実はかなり激しい曲の転調がある名曲です。そしてこのバンドが凄いところはそういう転調をまったく意識させないで聽かせてしまうところでしょうか。プログレの名曲といえば、動靜、緩急といった相反する要素を交互に展開させながら聽く者をはっとさせる仕掛けを用意しているものですが、この「ガラテア」が優れているのは、そういったギミックを拔きにして14分を無理なく聽かせてしまうところです。
小野さとしの吃驚するようなベースソロを經て、広瀬泰行のギターソロが展開される9分以降の展開も凄いのですが、これはオマケに過ぎません。本曲の聽き所はやはり何といっても五人のバカテクアーティストが己の得意技を封印して繰り廣げる絶妙のアンサンブルにあるといっていいでしょう。
續く「永遠の子供達」は冒頭の速やかなキーボードからロック魂を感じさせるギターの旋律に變わると、すぐに久保田陽子のボーカルが滑り込んできます。彼女の歌聲だけに耳を澄ませていると、プログレというよりは普通のロックに聽こえてしまうんですけど、ここでもなだらかな曲展開の裏で結構激しいことを演っています。それがいい。
「夢狩民幻想」は冒頭のイントロがサイモン・ガーファンクル?ってかんじなんですけど、このいかにも親しみやすい旋律をメロトロン風味のキーボードでさらりと仕上げてしまうあたりから大いに期待させられます。久保田の歌が入りそれが終わると、ピアノとギターでしずしずと盛り上がり、男聲のボーカルが入ってきます。中盤の音は本物のメロトロンを髣髴とさせ、いい雰囲気です。
そして最後が、アトールのクリスチャン・ベアも參加している大作「伝説を語りて」。ノッケからメロトロン風のキーボードで始まり、そこに爪彈くギターと久保田のボーカルが入るのですが、このあたりの、動靜でいえば靜の展開が、2分50分あたりで急展します。このあとのギターがとにかく恰好いいんですよ。冒頭のメロトロン風味の旋律とともに疾走するギターと久保田の和モノ絶叫ボーカルの見事な調和はどうでしょう。そしてプログレらしくボーカルの終わりでしっかりとキメてくれるところも最高です。今聽いてみると、何となくIQっぽい展開ですねこれは。10分を過ぎたあたりの混沌が轉じて、ドーンという音の連打が邪惡さを極め、久保田の魔女っぽい笑いとともに再び動に轉じるあたりなど、バンコっぽくもあります。とにかく動靜、動靜と緩急を交えた當にプログレの王道をいく曲展開が素晴らしい傑作でしょう。
ただ正直どのギターがクリスチャンなのかあんまりピンときませんでしたよ。中盤に入るギターが何処となく「夢魔」の音っぽいんですけど自信ないです、というか完全にクリスチャンもアンサンブルに徹してプロビデンスの音になっていますよ。
という譯で、北海道は札幌のバンド、といっても道産子的な雰囲気(ってどういう雰囲気だ)は皆無で、……と續けようとしたんですけど、プログレに地方色なんてないですか。まあ、當事の關西プログレの方が些か化粧が濃く耽美派みたいなところはあったかもしれません、というのは限りなく主觀に近い偏見でしょうかねえ。
で、こういう傑作だったらまだまだキチンとリリースされているだろうと早速アマゾンで檢索かけてみたんですけど、……何ですかこれは!ミステリもそうですけど、こういうふうにレアものを高値で取引するっていうの、自分はどうも好きになれないんですよ。
レコード會社の方、御願いですからこういう傑作を廃盤にしないでいただきたい。版權だか何だか知らないですけど、「權利」を持っていればそれに「義務」が伴うのは當然であって、傑作は世代を超えてリスナーの耳に届くようにリリースを續ける「義務」があると思うのですが如何。
もっとも舊版にそれだけの値がつけられるというのは名盤の証據ともいえるんでしょうかねえ。ちょっと複雜な心境ですよ。