汚物大戰。
警告あります。食事する方している方今すぐ讀むのやめてください。頭くじられます、……なんて思わず牧野センセの電波文調で語りかけたくなってしまうほどに強烈な本作、とにかくもう何というか、多くのキワモノ作品に触れてきた自分でありますけど、これほどキタない小説を讀んだのは生まれて初めてですよ。その意味で、最狂最凶最強にして最惡の作品であることは間違いありません。勿論襃め言葉ですよこれは。
という譯で、この先、物語の内容に触れるだけでも人格を疑われてしまうのではないかと凄く凄く不安なんですけど、ジャケ裏のあらすじはいうなれば汚水のうわずみをすくっただけという生ぬるさで、本作の真実の姿は伝えてはいないし、ここはやはり自分のような既に皆樣からもキワモノ認定を受けているブロガーがキチンと作品の内容にまでズップリと踏み込んで解説を加えていかないといけないでしょう、普通の人に「讀ませない」為にも。
物語の主人公は警備会社に勤める普通人の男なんですけど、彼が依頼された仕事というのが、マンションの一室をゴミ山にして暮らしていた所謂「片付けられない女」を探してもらいたいというもの。
で、腐乱したゴミ御殿ならぬ腐臭を放ってグチャグチャドロドロと汚濁したゴミルームに主人公は潜入するものの手懸かりは見つからない。一方この主人公には鬼畜家庭でひどい仕打ちを受けて半ば精神が壞れている恋人がいたり、主人公が常連となっているバーではトンデモ系を大眞面目に研究している男がいて彼曰く、この世界にはケミカル綺麗神と汚物神の二神が爭っているという。
更にはこの町を流れる川沿いにはフジツボみたいな汚らしい建物が増殖していて、その中にはホームレスだか何だかよく分からない、とにかく汚らしい何かが棲みついている。やがて町の住人はドヨーンとした不穩な空気とともに緩やかに腐っていき、そして……という話。
物語は中盤の大カタストロフを起點に前半後半と大きく分けられると思うんですけど、この汚物テイストがもっぱら炸裂するのは前半部。とにかくドロドロに腐った汚らしい汚物を見せつけて、ゴキブリのカサカサ動き回る音で背筋をゾワゾワと刺激しては、プワーンモワーンと臭い立つ下の惡臭に鼻を顰め、ネットリとした腐肉の感触に悲鳴をあげるという具合で、五感をフルに襲いまくるイヤ感溢れる描写はあまりに強烈。
コガシン先生の妖虫男や日野センセの藏六も眞っ青、というほどに強烈なシーンの數々はもう何というか、あちらのスカムホラーがその字義通りに汚水のうわずみに過ぎないとしたら、こちらは汚水の底に沈澱した汚らしいものをガッツリと掬い上げるようなものでして、普通の人はもう最初の三十頁も滿たないところでダウンは確実、流石の自分も今回ばかりはゲラゲラ笑うことさえ出來ませんでしたよ。
全編にわたってゴミと汚物と腐乱死体と使用濟生理用ナプキンが糞尿にまじって町を覆い盡くす中盤のカタストロフはもうそれだけで伝説。またグロとゲロはあってもエロがないというその獨特の風格にも注目するべきで、普通、これだけアブないと息抜きにエロのひとつやふたつはありそうなものですけど、そんなものは皆無。
まあ、前半顔を恍惚とさせた女子高生がコンビニにやってきて、賣り物リップクリームを鼻に突っ込んでアレしたりとか、美人妻がゾワゾワとした黒いものに襲撃されてうっとりしながらアレする場面とかありますけど、それらもエロというよりは完全にグロゲロワールドでありまして、その脳髄を直撃するイヤ感がもう半端ではない。
しかしそういった血圧上昇を強いる汚物シーンも中盤のカタストロフを過ぎると一段落、そのあとは前半に現れた美青年や、電波婆の陰謀、さらには汚物に魅入られたゴミ女の謎が明かされていきます。これがクトゥール風に大二神の対立の構図を描いている譯ですけど、これがもうどちらが善惡とかいう話ではなく、ケミカルまみれの清潔と汚物まみれの世界のいずれかの選択をはかるというものですから、讀者としてはどちらに肩入れすることも出來ません。
これはもうミステリマニアに、「ねえねえねえ、ミステリが讀めない世界と、二階堂黎人氏が認定した勘違いメタミステリとかギガンテスシリーズしか讀めない世界とどっちがいい?」みたいないわゆる究極以上の選択な譯です。で、この汚物ワールドの唯一神の逆鱗に触れた人間は肩口からプシューと黄色い膿を吹き出しては汚ならしい触手をゾワゾワさせて汚水を啜る怪物に變えられてしまう。
前半に勝利をおさめた汚物神がこの物語世界では善玉なのかなあ、と思わせておいて、その観念が徐々に熔解していくさまが後半に描かれていき、ファシズムめいた強權統治の世界は一氣に崩壞、狂言廻しとなっていた電波乞食も一掃されて物語は平常に戻るかと思いきや、最後にこれまたトンデモないZ級のカタストロフが待っているという何ともな幕引きも含めてまさに最強最惡の小説といえるでしょう。
実は小説の衝撃汚物シーンをいくつか引用しようと思ったんですけど、今回ばかりはあまりの凄まじさ故、自主規制させていただきますよ。もう、こればかりは皆さん是非とも本屋に赴いていただき直接ブツに當たっていただくのか一番ではないかと思う譯です。とりあえず冒頭、主人公がゴミルームを訪れる時の描写と、主人公の恋人がバーのトイレに入る場面までを讀んでいただき、この二つのシーンを讀んだだけでもうダメ、という方はそれ以上先に進むことは差し控えた方が宜しいかと。
このあと、もっとモット激しいのが待ちかまえていますから。この冒頭二つの場面だけで文庫本の頁数にすると27頁。だからこの27頁まで鼻歌まじりに軽く讀み流せるという奇特な方はこのあとの汚物爆発の大カタストロフも大いに愉しむことが出來るでしょう。そういう方の為の小説ですよこれは。
正直物語の結構はかなりブッ壞れていると思うんですけど、そんな構成の甘さもすべて許してしまえるほどの汚物描写の凄まじさに全ての言葉を失ってしまう、ナスティホラーの大怪作。世界で一番汚い小説賞というのがあるとすれば、間違いなく本作がブッちぎりで授賞するのではないでしょうか。
それほどまでに強烈な惡臭を放って和製ホラーのゴミの山に屹立する汚物塔である本作、「ベルゼブブ 」で汚い小説の頂點を目指した田中氏、そして虫系のイヤ感を得意とする平山氏でさえも到達しえなかった究極の姿がここにあります。まあ、誰も見たくはなかったんですけどね、ここまで凄いのは(爆)。
とりあえずrotten大好き!とかニコニコしながらグロ画像を愉しめる人の為の小説、ということにしておきましょうかねえ。もう一度繰り返しますが、普通の人は絶對に讀んじゃダメです。恐いモンみたさで一般人が手に取ると大變な目に遭いますので、くれぐれも御覺悟のほどを宜しく御願い致しますよ。