華麗流麗、優雅絢爛。
「世界中の大觀衆を沸かせている」とか、どうにもジャケ帯の大仰な惹句が胡散臭く感じられて、今までずっとアルバムの購入を躊躇らっていたKBBなんですが、今回はライブということもあって、思い切って買ってみました。
ヴァイオリンがメインのバンドというのは、なかなか難しいと思う譯です。ブログレといいつつ、ヘタをすると高田万由子の旦那さんみたいな音樂になってしまう。それはそれで惡くはないんですけど、そうなるとやはりプログレ魂みたいものがないと物足りない、ということになってしまいます。
という譯で、本作ですが、なかなかの佳作でした。基本的に自分はアンサンブル重視の音が好きで、ヴァイオリンばかりが前に出たような音だったらイヤだなあ、なんて考えていたのですけど杞憂でしたよ。主旋律はヴァイオリンがとりながらも、隨所にプログレ節が炸裂する構成が素晴らしい。壷井氏のヴァイオリンは時にエディ・ジョブソンより流麗に聞こえる時もあって、はっとさせられます。また裏で鳴っているハモンドがこれまたいい味を出していますねえ。
「Discontinuous Spiral」は冒頭の優雅なテーマを過ぎてから繰り返される旋律が何処となくトラッドを思わせるところが面白い。曲全体の雰圍氣を形作っているのはヴァイオリンではなく、オルガンであることがこの曲を聴くだけで分かります。ヴァイオリンは主旋律を受け持って流れを牽引していくのに徹し、裏で鳴っているオルガンが全体を引き締め、リズムは亂れることなく二つの音を支えていくようなかんじでしょうか。寧ろヴァイオリンが鳴っていない時の神祕的な雰圍氣が自分の好みですねえ。
「Inner Flames」は冒頭のリズムからサグラドを思わせる力強いリズムが印象的な曲。王道のハモンドが要所要所でアクセントを加えていくあたりもソツがなく、中盤の爆発からヴァイオリンのソロに流れる展開が恰好いい。
「白虹」は前の二曲から一転して、落ち着いたピアノと、雰圍氣のあるベースの音から始まる導入部が、おおよそヴァイオリンメインのバンドらしくない雰圍氣ですが、そのあとにすっと入ってくる優雅な旋律にはちょっと高田万由子の旦那さん入っていませんか。五分を過ぎたあたりから、どことなく雅樂を思わせる和の雰圍氣に變わり、ヴァイオリンとピアノはさながら水彩畫のような淡い音をそよがせ、後半になると次第次第に速さを増していくテーマに轉じます。硬いベースの音が唸りを上げながらヴァイオリンの音と絡み合う様は壓卷。
「I am not here」はピアノと爪彈かれるヴァイオリンからしずしずと始まる曲ですが、冒頭からヴァイオリンが泣きまくります。ピアノ、ベース、ドラムとヴァイオリンを除いた楽器は抽象的な音の場をかたちづくり、その中にヴァイオリンだけが一定のリズムを刻んでいくところが前曲とは大きく異なるところで、どことなく凶惡な香りがしますねえ。中盤の靜の部分からジャズの即興を思わせる抽象的な雰圍氣で押しまくるところなど、この曲だけ他のものとは大きく異なるような氣がします。
「滅びの川」は、一転してほっとするような優しいピアノの音から始まり、雰圍氣いっぱいのムードジャズっぽいベースが冒頭から盛り上げます。ヴァイオリンは意外なほど控えめで、ピアノが入ってきてもこの流れは變わりません。中盤からようやく泣きまくるヴァイオリンが前に出て來るのですが、ここが無類に恰好いい。
「熱砂の記憶」はジャーマンかELPか、というかんじのキーボードから入ってくるのでおや、と思ったのですが、そのあとはアラブっぽい旋律に導かれて、ヴァイオリンとベースが疾走を始めます。中盤にいくつかの混沌をはさみながら動靜と轉じながら流れていくのですが、曲構成は前半の方が際だっていたような氣がしますねえ。
「果てなき衝動」はヴァイオリンの劇的な旋律で始まる曲。収録曲の中では一番の好みでしょうか。ハモンドの恰好良さも聽き逃せません。とにかく小刻みな場面展開が心地よく、華麗でいながら亂れることなく何処までも續いていく疾走感が無類に心地よい。當にアルバムの最後を飾るのに相應しい名曲でしょう。
ただどうにも壷井氏というと、百戰錬磨の猛者たちと異種格鬪技を繰り廣げている方が數段恰好いいような氣がするのもまた事実で、本作のような普通に恰好いいプログレを演るよりも、もっと新しい音を求めてしまう自分は欲張りですかねえ。
本作の音樂はプログレを拔きにしても非常に明快で、シンフォファンもその王道的な音づくりに大滿足、更にプログレはよく分からないけども、華麗なヴァイオリンの旋律に痺れてしまう素人の方にも十分にアピール出來る極上の仕上がりです。
昔の和プログレ、例えば同じヴァイオリンを取り入れたアウターリミッツなどに比較すれば、和プログレ特有のバタ臭さもないし、素直に恰好いいところがこのバンドの長所でしょうか。寧ろ自分のような偏屈なマニアよりも、イエスやELPといった王道の次のステップとして聽かれると良いのではないかと思いましたが如何でしょう、大御所の皆樣。