ストーカーとキ印男の大博覽会という點では、「東京伝説」に通じる作風ながら、「ポップティーン」というティーン向け雜誌に連載という形式の故か、毒は少なめ。これでしたら「東京伝説」のあまりのエグさに平山氏の作品を戀人におすすめできなかった御仁も安心の一册といえるでしょう。
殆どはストーカーを扱った作品ですが、「霊能志願」のように怪異が當たり前のかたちで物語に取り込まれていて、そこからキ印の偏執ぶりが炸裂していく作品や、「夢の廊下」など、怪異が幻想なのか現実なのか曖昧なかたちで提示される作品など、「東京伝説」のソフト版の體裁をとっていながら「怖い本」にも通じる掌編が収録されているところがなかなかいい。
毒は少なめ、といいつつ、冒頭の「リモコンデート」から既に作者は全力疾走。「ウッ……」、「ウオッ、ウオッ」というしゃくりあげるような擬音でリミットすれすれまでイヤ感を盛り上げていく手腕は流石で、携帯の番號を變えて變えても執拗に追いかけてくるキ印のストーカーという設定は、作者の作品を讀み慣れている御仁であれば安心して讀むことが出來ること受け合いです。
それにしても、このストーカー男が携帯で女に要求する内容というのがふるっていて、「膝をできるだけ曲げないで落としたハンカチを拾ってほしい」という要求には流石に首を傾げてしまうものの、「ソフトクリームを買って鼻の先についたクリームを舌で舐め取って欲しい」、「白いぶかぶかのセーターを着て、ジャンプして欲しい」っていうキ印男のリクエストに關しては何となく理解出來てしまう自分が怖い(爆)。
個人的に一番キていたのは後半に収録されている「糸」ですかねえ。渋谷のクラブで知り合った男とホテルに行くのですが、男は絶對に頭を触らせないのです。「頭は絶対いけないんだ……頭は。それが約束なんだ」とポテトチップスを食べながらそう繰り返す男も怖いんですけど、平山節が炸裂するのはそのすぐ後。深夜、目を覚まして男の寝顏を見つめていると、「頭は絶対いけない」という男の言葉をフと思い出した女は、男の髮の中に手を入れてみます。すると、硬い糸のようなものに触れて、それを引っ張ってみると、……とその後はもう考えていた通りのイヤ感溢れる描写が續くのですが、この掌編がキているのは後日談があることでありまして。完全にブッ壞れてしまった男と偶然渋谷で出會った彼女は、……というところで話が終わります。
「東京伝説」でお馴染みの蟲ものは「命の次に……」という一編だけが収録されています。爬蟲類蟲好きのカレシの部屋に行った時,蜘蛛に指の先を指されてしまった女は、……という話で、もうだいたいこの後の展開は予想がつきますよねえ。案の定、彼女の指はグングン腫れてきて、男の方は絶對に醫者に行くなといってききません。最後に男は女の指に何やら怪しげな藥をつけると、……というところで背中がムズムズするような描写が冴えてます。
上にも書いた通り、「東京伝説」のハゲしさに比べれば殆どは平山節入門書とでもいうべきやさしさにあふれておりまして、女子高生が都市伝説を語る時の「あるある」とか「いるいる」とかいう軽いノリに傾いた結果、作者の怪異もより明快なかたちで語られることになったということでしょう。
「東京伝説」の最新刊を心待ちにしている御仁にはどうにもやさしすぎていけませんが、初心者にはこれくらいが適當かもしれません。それにしてもジャケと挿畫のデザインは怖すぎですよ。