さて、本格ミステリ議論で最近話題となっている二階堂黎人氏。ここ數日氏のサイトの掲示板で繰り広げられていた活發な議論を追い掛けていたのですが、本格ミステリの定義以上に氣になっているのが、氏の批評眼ランキングでありまして。
氏がサイトの日記で言及しているマイ批評眼ランキングでありますが、その物差しはいったいどうなっているのか。本格ミステリの議論とは異なり、氏は自身の批評眼の何たるかについては明らかにしておりません。唯一この内容を探る手がかりとなるのは、氏が「2006 本格ミステリベスト10」を引き合いに出して語っていた何人かの評論家の批評眼ランキングでありましょう。
これによると、自分もお氣に入りの日下三蔵氏の批評眼ランキングは、3位から1位に昇格する一方、佳多山大地氏は4位から9位に、そして円堂都司昭氏は5位から10位に降格。昨年と比較してランクダウンぶりの一番激しいのが黒田研二氏でありまして、こちらは25位から50位。佳多山氏、円堂氏が5ランクの降格のみで免れたのに比較してこちらは25ランクの降格でありますから尋常ではありません。
で、上に擧げられている四氏が「2006 本格ミステリベスト10」においてどの作品に投票したのかを見てみれば、二階堂氏の批評眼ランキングの全容が朧気ながらも見えてくるのではないかと思った次第です。
では、四氏がどの作品に投票したのかを見てみましょうか。
日下三蔵氏
1. 神様ゲーム
2. 扉は閉ざされたまま
3. 弥勒の掌
4. 旧宮殿にて
5. ニッポン硬貨の謎佳多山大地氏
1.容疑者X氏の献身
2. 扉は閉ざされたまま
3. 交換殺人には向かない夜
4. 弥勒の掌
5. モロッコ水晶の謎円堂都司昭氏
1.容疑者X氏の献身
2. 扉は閉ざされたまま
3. 神様ゲーム
4. 弥勒の掌
5. ルパンの消息黒田研二氏
1.容疑者X氏の献身
2.神様ゲーム
3. 女王様と私
4. 死神の精度
5. 弥勒の掌
自分は頭が悪いので、論理的數学的統計学的檢証とかそのテの類が苦手なので、この資料を基に誰かが緻密な檢証をしていただければと思います。「猫は勘定にいれません」のたけ14さんがこういうの得意そうなんだけどなあ、……とここではさりげなく話を振っておきますよ(爆)。
という譯で以下はざっと見た印象なんですけど、まず上にも書いた通り、昨年のランキングと比較すると、黒田氏の降格ぶりが激しいのに注目です。三氏はたったの五ランクのみの降格だけなのに對して、黒田氏は25ランクも下がっています。これは黒田氏の投票した作品が二階堂氏の本格ミステリ観に照らし合わせると「いただけない」作品ばかりだったということですよねえ。
ここでランキングを見てみると、黒田氏、円堂氏、そして佳多山氏ともに1位には「容疑者X氏の献身」を擧げています。これが二階堂氏の逆鱗に触れたのは氏の主張を追っていれば明らかな譯ですが、円堂氏、そして佳多山氏ともにこの作品を1位に推していることを考えると、黒田氏の25ランクの落ち込みの原因をこの作品とすることは出來ません。だとすると、黒田氏が投票した2位から5位の作品にその原因があるとみなすのが適當でありましょう。
黒田氏、2位には「神様ゲーム」を擧げているのですが、この作品は二階堂氏の批評眼ランキングでは今年一位を獲得している日下氏が1位投票している作品でもありまして、ここからこの作品が25ランクもの降格を引き起こしたと見なすことは出來ません。次に黒田氏が3位に投票したのは「女王様と私」。これについては他の三氏が投票をしていないので、とりあえず保留。續く4位の「死神の精度」も同樣の理由で保留とします。
そして黒田氏が5位に投票した「弥勒の掌」は二階堂氏の批評眼ランキングで一位を獲得した日下氏が3位に投票しています。二階堂氏が自身のサイトでこの作品に言及していた内容から察するに、「弥勒の掌」が氏の本格ミステリ観に近しい作品であることが分かります。また日下氏の投票内容も併せて考えれば、本作も黒田氏のランキング降格の理由と見なすことは出來ないでしょう。
そうなると、黒田氏を25ランクも降格させた作品は結局「女王様と私」と「死神の精度」の二作品のいずれか、或いは雙方と考えることが出來ると思うんですけど如何。つまり黒田氏はまず「容疑者Xの献身」を1位に推したことで、昨年の25位から30位へと降格し(円堂氏、そして佳多山氏が5ランク下げたのと同樣)、更に「女王樣と私」と「死神の精度」に票を投じたことで、30位から50位まで降格してしまったと。「女王様と私」と「死神の精度」だけで20ランクも落ちたとすると、二階堂氏としては、この二作品のいずれか、或いは雙方とも「容疑者Xへの献身」以上に本格ミステリとしては許せない作品と見なしているのではないかと思うのですがどうでしょう(もっとも円堂氏、佳多山氏兩氏が2位から5位に投票した作品に着目しないとこの檢証もダメダメなんですけど、まあ餘興ということで)。
「女王様」と「死神」のいずれがいかほどの重みをもって黒田氏のランキング降格を引き起こしたのかはこのデータだけからは見えてこないんですけど、それ以上に謎なのが、「神様ゲーム」を1位に推した日下氏のランキングが3位から1位に上がっていることでありまして。
というのも、二階堂氏の「カーの復讐」のレビューでも書いたのですが、「神様ゲーム」っていうのは、ミステリーランドの器の中で評價した場合、「カーの復讐」の對極にある作品ではないかと思うんですよ。それが二階堂氏の本格ミステリ観からすると「神様ゲーム」は問題がなく、その一方「容疑者Xの献身」がダメっていうのがよく分かりません。個人的には「容疑者Xの献身」よりも、氏が「神様ゲーム」をどのように評價しているのか、そして「死神の精度」と「女王様と私」の二作品に對してはどういうふうに感じておられるのかに興味がありますねえ。
その他この本の中で興味深かった記事は我孫子氏の「2005年のe-NOVELS」とつずみ綾氏の手になる「国内復刊ミステリ」の二つ。
特に論創社からリリースされている「橋本五郎探偵小説選」は大陸の探偵小説について言及しているとのことで、ちょっと氣になります。国枝四郎「探偵小説全集」は既にゲットしてあるので、正月休みにまったりと讀もうかなと考えています。