ジェネシスのピーター・ガブリエルを祖とする「被り物ロック」。その系譜はここ日本にもシッカリと受け繼がれておりまして、東に金属惠比須あれば(といっても流石に「紅葉狩」で箱男の被りものはやっていませんよねえ?)、西の京都にはウォーラスあり。金属惠比須の箱男は完全にイロモノでありますが、こちらは大眞面目ですよ。
ウォーラスでググると、まず一番先頭にバンドの公式サイトが出て來るのですがその下に注目。被りものっていってもどんなかんじかというと、こんなかんじですよ。植物性物語といっても今ひとつピンとこないんですけど、本作のジャケ裏の、ボーカル椎葉氏の寫眞に「惡魔の植物人間」を連想してしまうのは自分だけでしょうか。スミマセン。
本當は今ですと新月の北山真氏も大絶贊のセカンドを取り上げるべきなんでしょうけど、まだゲット出來ていないので、今日は彼らのファースト「特異点の部屋」を。
一曲目「飛びこんできたスクリーン」は當にジェネシス風の美しいギターのアルペジオから始まる曲。初期ジェネシスの雰囲気がタップリで、中間のコーラス部といい、「サルマシスの泉」を髣髴とさせる素晴らしいギターソロといい、當に初期ジェネシスファンもニンマリしてしまうこと受け合いです。
しかし單なるジェネシスの模倣でないことは、例えばボーカル椎葉氏の透き通った歌聲を聞いただけでも明らかで、この少年のように澄み切った歌聲はガブリエルというよりは新月のそれに近い。かなり魅力的な聲なんですけど、女性ファンとかいないんでしょうか。あ、やはり被り物はNGですかそうですか。
派手な展開はない乍らも、ボーカル、ギターのアレンジとこのバンドの魅力的な部分が明確に現れている曲でしょう。
續く「フリーデルとカーテルリース」は一曲目とは大きく異なる派手なギターの冒頭部にはっとさせられますが、ノリのいい展開と何よりサビの部分に入る瞬間のタメが拔群に恰好いい。しかしボーカルの椎葉氏の聲は高音部までシッカリ伸びますねえ。初期ジェネシスの模倣というと、どうにもボーカルは「シアトリカル」という言葉を免罪符にヘタウマでゴリ押りするバンドも見られるなか、このボーカルだけでもお氣に入りに加えてしまいたいくらいですよ。
「ぼくのワークショップ」は靜かでいながらどことなく不氣味なギターのアルペジオがちっと怖い。ボーカルも半音階使いまくりで淡々と進みます。歌詞も何氣に明確さを欠いてちょっと不氣味。それでもサビのところで少しばかり明るい雰囲気を取り戻します。
「[deceiver]」はそのタイトルからクリムゾン系かと思ったりもするんですけど、メロトロンとギターのアルペジオが美しい、ジェネシスというよりはアンジュを思わせる面白い曲。歌の部分など昔の四人囃子みたいに凄くポップなんですけど、ようく聽いてみるとギターとともにボーカルが歌うところでは裏でシッカリとメロトロンが鳴っていますし、このあたりがアンジュっぽい。ちょっと懷かしい雰囲気(昔の歌謠曲フウ)さえ感じさせるポップな部分もまたこのバンドの魅力のひとつでありましょう。
「インタビュー」は肩の力を抜いたかんじで優しく展開する小品。くつろいだかんじで爪彈かれるギターが心地よく、コーラスも完璧。ジェネシスでもこういう小品でほっとするような曲ってありますよねえ。そんなかんじです。
「まっしろな城」は冒頭部からメロトロンが鳴っていて氣合いも充分、これも何となく昔の歌謠曲フウのフレーズが何処か懷かしい雰囲気を釀し出しています。それでいてボーカル部分の裏でもシッカリと鳴っているメロトロンがやはり凡百の歌謠ポップスとは異なるところで、派手さはないものの、四人囃子や新月が持っていた親しみやすいポップな部分とプログレ風味を巧みに效かせたアレンジが気持ちいい。
ド派手な展開がないので、プログレマニアに強力にアピールする部分は少ないんですけど、それは逆にうまく轉べばマイナーなプログレの枠からポップスのフィールドでもブレークする可能性もあるといえる譯で、自分としてはそちらの展開を期待してしまうんですけど、やはり被り物では、……無理ですかねえ。
初期ジェネシスやアンジュが好きなマニアにおすすめしたい、日本が誇る被り物プログレの注目株。おすすめです。