で、頭は混亂するばかりなのでありました。
鮎川御大から二階堂氏へと編集長が交代した本格推理シリーズでありますが、やはり氏の本格推理小説論をシッカリと理解する為にはこのシリーズを避けては通れない譯でありまして、どれかひとつ、と探していたら、現時點での最新作「九つの署名」は「シリーズ最高レベルでの傑作が勢揃い」とのことなので後学のためにと購入しました、……か、まずブッたまげたのが二階堂氏のまえがきですよ。
この中で氏は二〇〇四年度の本格推理小説界の樣子を簡単に振り返ってみるとして、「本格推理小説の樣式美を極限まで追究し」た作品十作を擧げているのですが、そのセレクトが自分的には大問題でありまして。とりあえず氏が推薦している十作を以下に竝べてみますと、
島田荘司「龍臥亭幻想」
綾辻行人「暗黒館の殺人」
芦辺拓「紅樓夢の殺人」
麻耶雄嵩「螢」
西澤保彦「パズラー」
谺健二「星の牢獄」
乾くるみ「イニシエーション・ラブ」
加賀美雅之「監獄島」
石持浅海「水の迷宮」
大山誠一郎「アルファベット・パズラーズ」
吃驚したことに、芦辺拓氏の「紅樓夢の殺人」と乾くるみ氏の「イニシエーション・ラブ」が入っているんですよ。もう頭の中は疑問符で一杯です。だってねえ、二階堂氏が提唱されている本格推理小説の条件から鑑みれば、「イニシエーション・ラブ」は本格推理小説以前にそもそもミステリでさえない、ということになってしまうと思うんですけど、どうなっているんでしょう。
更に「紅樓夢の殺人」は「本格推理小説の樣式美を極限まで追究」どころか、それを突き拔けてしまった作品だと自分は思っている譯で。何故この二つの大傑作が氏にとってはミステリで、そして本格推理小説でありえるのか、サッパリ分からなくなってしまいました。
氏が提唱されている本格推理小説の条件っていうのは、あくまで書き手に向けられたものであって、批評する側が考慮にいれるべきものではないのか、とも考えたのですけど、だとすると、氏があそこまで執拗に「容疑者X の献身」が本格推理小説ではない、斷じてない、とこだわりまくる理由が説明出來ません。
もう完全に降參ですよ。氏の本格推理小説論は凡庸な頭しか持たない自分の理解を完全に超えています。
更に分からないのが、氏が「暗黒館の殺人」について述べたくだりでありまして、
たとえば、私が本格推理小説(或いは昔ながらの探偵小説)に求める要素は、謎、怪奇、冒險、名探偵の活躍です。つまり、冒頭に示される不可解な謎を、探偵(読者と同一の存在)が、苦労して解き明かしていく過程にこそ、話の展開の面白さがあるわけです。その面白さを除外しては、小説を読む醍醐味はなくなってしまいます。
まあ、この文章の前で、「暗黒館の殺人」の前半が冗長であるという批判はトンデモない、と氏は主張しておりまして、それが後半の「話の展開の面白さ」の言及へと繋がっていく譯ですが、何より氣になるのは、氏が本格推理小説に求める要素としてここに擧げている四項目でして。謎、怪奇、冒險、名探偵、……って、これ、氏がサイトの日誌で擧げていた本格推理小説の三条件とは違うじゃないですか。あちらの方には、探偵とか冒險なんて要素はありませんでしたよ。
じゃあ、どちらが本當の氏の本格推理小説を表しているのかと。蘭子シリーズ、そしてサトルシリーズの雙方とも、ここに述べられている謎、怪奇、冒險、名探偵という要素を滿たしており、その意味では當にこの四要素こそは氏の小説の魅力を端的に表現しているともいえる譯ですが、その一方で別の基準(サイトで述べられていた三條件)を持ち出して「容疑者X」は本格推理小説ではない、と斷じてしまう。どうにも氏の考えがよく分かりません。
という譯で、新たな疑問。
疑問其の七
氏がサイトで述べられている「本格推理小説の三條件」(以下三條件)と、ここに述べられている「本格推理小説の四要素」(以下四要素)は同じものなのか。或いは、いずれかはいずれかに還元され得るものなのか。
しかしよくよく讀むと、この四要素に關して、氏は本格推理小説に「求める」要素と書いている。これはあくまで氏が本格推理小説に「期待する」要素に過ぎず、本格推理小説を構成する「必要條件」ではないということなのか。つまり四要素を滿たさず、二階堂氏の期待を外したとしても、その作品は「客観的には」本格推理小説として成立し得るということなのか。
つまり「三條件」は本格推理小説を構成する必要條件であって、「四要素」が十分條件である、とかそういう關係なんですかねえ。
まあ自分としては、二階堂氏が、「ゴメン、サイトでブチあげた三條件っていうのは、「容疑者X」にイチャモンつけたい為だけにデッチアゲたもので、本當に私が本格推理小説に求めているのはここに書いてある四要素なんですよ」とかいっててくれれば、モウそれだけですべての疑問は氷解するんですけど、臺灣のミステリブログ界隈でも「武鬪派」と話題の二階堂氏のことですから、戦いがいがある、とかいって自らブチあげた火種をそんな軽々しい一言で取り下げるとはとうてい思えませんよねえ。サイトの掲示板での議論は終息し、今でこそ沈黙を保っていますけど、本格ミステリ大賞選考の場において武鬪派の面目躍如とばかりにこの議論を再びブチ挙げてくれるのでないかと自分は期待しております。さあ果たしてどうなるか。
という前振りをしておいて、次エントリでは本作に収録されている入選作のレビューをしてみたいと思います。以下次號。