へえ、講談社文庫から出たんですね。自分はもうずっと昔にカッパ・ノベルズで出た時に讀んでしまったのですけど、本屋でこの文庫の後ろを見てみたら、乾くるみが解説書いているじゃないですか。正直綾辻氏の作品のなかでも、本作はもう一度讀みなおしたくなるほど魅力のあるものではないと感じているので、……綾辻行人といえば、やはり館シリーズやダリオ・アルジェントの映畫を髣髴とさせる囁きシリーズなど、いうなれば小説世界の雰圍氣を尊重する作風だと思っていたので、これを讀んだときは「警察が主要な登場人物だって?綾辻行人らしくないなあ」と。しかしもうずうっと昔のことなので、今讀みかえしてみたらまた違った印象を抱くかもしれません。
この作品は綾辻氏にしては珍しく實際の世界を扱った物語でして、館シリーズや囁きシリーズなどを讀み継いできた自分にとっては違和感があったのも事実。ただこの物語の舞台となっているM市なんですけど、これ、自分が住んでいる隣町なんですよねえ。M市って書いてありますけど、これは東京都町田市のことで、自分が住んでいるのはこの隣、境川を挾んで向こう側に位置する神奈川県の方であります。しかしこの周邊に「御玉神照命会」の教團ビルを想起させるような建物は見當たりません。川沿い周辺で目立つ建物といえばヨドバシカメラとラブホテルくらいです。あ、でもこの事件があった當事はまだヨドバシカメラはなかったっけ。
……ととここまで事件の舞台を把握しておきながら、本作で展開される犯人の動機と犯行方法はサッパリ思いつきませんでしたよ。というか、これ、當てるのムリです。
「何故犯人は死体の首を切断したのか」という謎がキモなんですけど、その理由たるや前代未聞のもので、この理由が分かればおのずと犯人もあきらかになるという趣向はさすが。
しかし綾辻氏といえば京都在住の筈で、それがまた何で東京の、都心でもない県境の町田などを舞台にしたのか、……というかどうやってこの場所の存在を知ったのか興味があります。
そういえば、竹本健治って以前(今も?)町田市在住じゃありませんでしたっけ。だとすれば、竹本氏の家に遊びに行った綾辻氏がこの場所の存在を知り「この場所にあの動機、……ネタに使える」とか思いついたのでは、などと考えてしまいました。