風邪がまだ治らない……。
という譯で買ったもののずっとため込んである「螢」も「星の牢獄」も「羊の祕」も手をつけていません。何かみんな體力を要するものばかりなので。いっそのこと、カンフル劑代わりに平山夢明の「SINKER」とかイッキ讀みしたら元氣になるかな、とか風邪藥でボーッとした頭で考えたりもしたんですけども、とりあえず今日も一日寝てましたよ。
で、昨日は連城の作品のなかでも「美の神たちの叛乱」という謀略ものを取り上げたので、今日は初期の謀略ものの傑作ということで本作を。
ミステリと恋愛を絡めた傑作が多い連城だけども、海外や特殊な時代背景をテーマにしたシリーズというのもあって、長編では本作や「美の神たちの叛乱」、そして短編集では「火恋」というのもあったりして、とにかく作者の抽斗の多さには本當に驚いてしまうのだけども、そんななかでも本作は「火恋」に収録されている作品でも使用されたある特殊な時代背景でしか使えない大技を使って、最後に讀者をえっ?といわせる仕掛けがあるのです。勿論本作の醍醐味はそのような大きな仕掛けだけではなくて、謀略ものの定番である騙し騙されつつ二転三転するプロットを愉しむことにあります。そして主人公の出生にまつわる謎解きも交えて、本當に映畫的なミステリロマンが展開します。
解説で香山二三郎も述べているのだけども、本作では映畫的な手法が際だっているのが特徴です。自分はあまり映畫は見ないので、まず本作やほかの連城作品を讀んだ時は、「うわっ、これはマジックレアリズムじゃないの」と思いましたよ。プイグやマルケスなどが多用する、一文の中で場面展開が頻繁になされる手法がそれなんですけど、よくよく考えてみたら、この二人の偉大なるマジックレアリズムの作家は映畫の仕事もこなしていた譯で、いうなれば連城も同じように映畫の影響も受けながら、このようなテクニックに辿り着いたのでしょう。
作者の謀略ものともいえる一連の作品群のなかでは一番ロマンチックで壯大な物語。ミステリとしても、また現在の作者が用いている小説テクニックを堪能する意味でもマストな一册です。