昨日、文庫で出た「時の密室」と「時の誘拐」を二册購入し、これから讀もうとしているのですけどまずはその前に、既に文庫になっている本作について書いておきます。
芦辺拓との出會いは彼のデビュー作である「殺人喜劇の13人」で、もうずっと昔の話。しかしこの小説、文体が自分の好みに合わなかったのか非常に讀みにくく、樣々な事件の要素を詰め込んだ贅澤なミステリであったものの、あまり印象に残っていないのです。
そんな自分が彼の作品を再び讀む氣になったのが本作の文庫。折しも二階堂黎人が「魔術王事件」という怪作を出したその後でした。本作はそのタイトル通り、往年の乱歩の小説を髣髴とさせる怪人と探偵の冒險活劇でありまして、二階堂黎人の作風とはまともにかぶるんですけど、あちらが時代設定を探偵小説華やかりし頃にとどめているのにたいして、こちらは舞台を現代の大阪にしてのガチンコ対決。時折懷かしい講談調の文体があることを除けば、本當によく出來たエンターテイメントです。
それでも二階堂黎人の小説のようにアッサリと分かってしまうようなトリックは用意せずにしっかりと讀者を騙すための仕掛けも用意されているあたりが良いですねえ。自分は冒險活劇を追いかけるのに夢中でこれまた見事に作者の仕掛けに引っかかってしまいましたよ。またこの仕掛け自体、この小説のメタ要素を逆手にとったもので、當に自分のような讀者に向けての騙しの仕掛けだったことが判明したりして、二重の意味で嬉しい悔しさを味わってしまいました。ちょっとファンになってしまいましたよ、芦辺拓。
んで、新刊の「時の密室」が出たので、これは愉しみだ、今度は探偵森江春策はいったいどんな怪人と対決するのかと期待はグングン膨らんでいきます。
「誘拐」と「密室」のどっちから讀もうか迷っているんですけど、順番は關係ないと思うので、とりあえず新作の方から手をつけてみますかねえ。