去年出たこの雑誌「エソラ」ですけど、今になって購入した動機は二つありまして、ひとつは氷川透の短編が掲載されているのを見つけたこと。この短編、氷川氏も自分のホームベージで自信作だと述べていたから、これは讀んでみないといけませんよねえ。
もう一つは、伊坂幸太郎の長編「魔王」。
伊坂幸太郎は、その昔「重力ピエロ」を、ジャケについていた編集部の人間だかの煽り文句つられて手にとって購入してはみたものの、自分の趣味に合わなくて、「これはイカンな……世間では凄く評判になっているというのに、自分は全然面白いとは思えない。どうしよう……」と感じてしまった苦い思い出のある作家であります。で、今回再びリベンジということで讀んでみようと。
氷川透の短編「あす死んだ人」はすでに昨日の時点で讀み終えているんですけど、吉田修一の「台北迷路」の方を先に取り上げてみたいと思います。
実は吉田修一って、讀んだことがないんですよ。いや、ドラマにもなって、いま旬の作家のひとりだってことは知っていますよ。でも、何か自分の趣味ではないような気がしていまして。雑誌か何かで見た氏の容貌も「お洒落に気を遣った、明るくて若々しい奥泉光」ってなかんじで、ちょっと自分が讀みたい小説を書くようなひとには見えなかったもので(顏で判断するな、顏で)。
んで、この短編もタイトルが「台北迷路」じゃなかったらきっと讀まなかったと思います。
結論から先にいうと、予想通りというか、ちょっと洒落た小説というかんじでした。ただ謎があって、それを確認したくてここに文章を書いておこうと。
この小説のはじまりの一文は以下のようなかんじ。
かなり長い間、泉がじっと見つめていた男が、やっとこちらに目を向けた。
で、まあ、主人公の作家でもある道彦と彼の恋人である泉といろいろとありまして、最後に彼は本屋に入り、中国語に翻訳されている自分の本を手に取るのです。で、當然のこと乍ら、その本も中国語で書かれている譯で、彼は「間違いなく、一字一句、自分が書いたはずの文章なのに、漢字だらけで、そこに何が書いてあるのかさえ分からない」。
しかしですね、この文章のあとに書かれている、この本からの引用文が謎なんです。
「泉凝望著那個男子好長一段時間、……」から始まるこの一文は、上に引用したこの短編小説「台北迷路」の最初の一文「かなり長い間、泉が……」と同じなんですよ。
ということはですよ、この、道彦が本屋で手にした、中国語に翻訳された本というのはいったい何なんでしょう? 「台北迷路」の中国語版? いや、違うって。道彦はその短編小説の主人公でこの小説の作者で……と一瞬頭がグルグルしてしまいました。
それともそんなに思い惱むことはなくて、これは作者である吉田修一氏のちょっとしたお遊びに過ぎないんでしょうか?いや、吉田氏のキャラを知らないもので、氏がこういうことをする茶目っ気のある作家なのかよく分からないのです。吉田修一に詳しいひと、知っていたら教えてください。
それともうひとつ、主人公の道彦が物語の最後に泉と一緒に入ったこの本屋ですけど、これは私も大好きな誠品書店ですね。本文から引用すると、
二十四時間営業の書店に入ると、東京でいうところの池袋リブロや青山ブックセンターのようにシックな内装で、そろそろ十一時になろうとしているのに、かなり大勢の客が入っており、椅子というよりはフロアにある段差という段差に、多くの若者たちが座り込んで熱心に本を読んでいた。
この誠品書店、自分も自己紹介のところで書いていますけど、世界で一番お洒落で素敵な本屋さんだと思っています。ここで本をゴッソリ買ったあと、隣に併設されたカフェでひとやすみするのがちょっとした愉しみであります。また音楽CDも売っていたりするんですけど、これがEMC New Seriesだったりしてまた洒落ているんだなあ。
ただ、去年臺北101に凄まじく大きな本屋が出來まして、在庫數とか半端じゃないんですよ。中国語の本は勿論のこと、洋書の數とかもう異常。ちょっと誠品書店も壓され気味のようなんですけど、やはりあのシックな雰圍氣は誠品だけだと思うので、頑張ってほしいところです。