風邪ひいてしまった。
有栖川有栖の「ロシア紅茶の謎」を讀みかえそうと思っていたのだけども、風邪で頭がボーッとしている状態でロジック主體のミステリを讀み通すのはチとつらいので、何かほかのものを、と思ったところ、本棚を整理しようと思って床に平積みになっていた中から本作を取り出して讀みかえすことにしました。
本當は最近購入して取ってある米澤穂信の「さよなら妖精」が讀みたくて讀みたくて仕方がないんですけど、これはやはり体の調子が良いときにじっくりと味わいたいので、我慢我慢。
さて、篠田節子というとやはり「ゴサインタン」や「弥勒」の印象が強く(或いは直木賞を授賞した「女たちのジハード」か)、本作などはあまり目だ立つずにひっそりと本屋に並んだ為、あまり話題にも上らなかったように思うのですけどもどうでしょう。
「インコは戻ってきたか」「コンタクト・ゾーン」あたりはまだ「弥勒」と同じく異国での怒濤の展開という篠田節子の長編路線を踏襲していたのですけども、本作の場合、舞台も日本、それも彼女にしてみれば地元の八王子周辺から物語が始まるし、その意味ではどうにも地味な作品となってしまっています。
それでも自分がこの作品に惹かれてしまう理由というのはもう單純で、……はい、うちもゴールデン飼っているんですよ。それだけ。
で、ジャケについていた帶にゴールデンの横向きの写真が添えられているのを本屋で見かけ、物語のあらすじを讀んだだけでもう即買いしてしまいまして。
物語の方は從來の冒險路線というよりは、ロードムービーのような展開で、主人公の主婦とポポという名のゴールデンとの人々の出会い、みたいなお話です。まあ、この點あんまり書くこともないんですけどひとつだけ。この作品、実はある仕掛けがしてあるんですよ。逃亡先で主人公とポポは隠れ家を見つけて、ずっとそこで暮らしていくうちに、地元のちょっと譯ありの老人と知り合いにもなってうまくやっていくんですけど、後半、ポポは病気に罹ります。で、順當に考えたらこのポポが死んで主人公の逃避行も終わり日常にかえっていく、……と普通の作家だったらこんなふうに締めくくるじゃないですか。そこが違うんですよ。さすがは篠田節子、一捻りしてあるというか。
まあ、この逃避行がどのような結末を迎えるのかは讀んでいただくとして、篠田節子は今後どんな作風に向かっていくのかがちょっと氣になるところです。
自分としては「ゴサインタン」「弥勒」のような「ダメ男があることをきっかけに覺醒する」みたいな話が好きなんですけど、「インコは戻ってきたか」で主人公を女性にし、「コンタクト・ゾーン」でもそれは変わらず、この「逃避行」でも相變わらず主人公は女性。それも主婦。「ゴサインタン」路線を意圖的に離れているかのような作風の転換が見られるのですけど、このあと、どうなってしまうのか。最新長編である「砂漠の船」は本作から派生した「家庭」というもののありかたを問うていくもうひとつの路線と考えることも出來るけども、やはり自分は「ゴサインタン」の冒險ものでまたひとつ、吃驚するような作品を讀んでみたいですねえ。