あのルチオ・フルチが「呪怨」を?!
何だかもうハチャメチャですよ。全編にわたってこれでもかというくらいに展開される破綻ぶりと御約束、さらには予定調和と投げやりに過ぎる構成など、B級C級テイストのステキな香りがプンプンと立ち上ってくる(勿論襃め言葉)本作は、映画「オトシモノ」のノベライズにして、作者はあの福澤氏。
いつになく改行の多い文章といい、ジャパニーズホラーでは定番の、黒髮幽靈がヌボーッと出てきていやーっ!となるシーンなどこれはもう、完全に確信犯でしょう。福澤氏らしくない、といえばそうなんですけど、それでも前半に事故った電車の中で女子高生たちがついつい実話怪談モードに入ってしまうところなど、いかにも氏らしいディテールも見られて福澤ファンもニヤニヤ笑い。
あらすじを簡單に纏めると、不幸な靈感少女が不氣味女の幽靈事件をきっかけに友情の大切さを確認、とまア、そんな内容です。公式サイトを見ると主人公であるこの靈感少女は沢尻エリカが演じるようなんですけど、本作を讀む限りこのキャスティングはナイス。さらにこの靈感少女のクラスメートで、ダメ男をカレシに持つ卷き込まれ女には若槻千夏。本作を讀む限りこちらも沢尻エリカ以上にピッタリの配役といえましょう。
で、靈感少女の妹の友達が妙チキリンな定期券を拾ったことをきっかけに行方不明に、……という導入部から、この失踪した男の子が化け物として現世にご歸還。変わり果てた我が子を目の当たりにした母親は發狂、という激しい展開を見せる一方、若槻千夏演じる少女は、ダメ男のカレシからプレゼントされたブレスレットに祟られて以後、不氣味な黒髮幽靈につきまとわれることに。
ダメ男は電車に轢かれて御臨終、そして死に際のメッセージ、ヤエコに気をつけろ、という謎の言葉を探る過程で、件の靈感少女と一致団結して黒髮幽靈の正体を追っていくのですけど、ここで靈感少女の妹も不氣味アイテムの定期券を拾って失踪という事態が発生。果たして妹はどうなるのか。そして彼女たちの運命は、……という話。
ここに黒髮幽靈を目撃してしまったことをきっかけに運転手から窓際族へと落ちぶれた若者も交えて、後半は黒髮幽靈との對決と相成るのですが、この展開がもうメチャクチャ。
キ印っぽいママが意味もなく登場して、最後には彼女が事件のキーマンだったことが唐突に明かされたりと、いかにも投げやりなB級C級テイストか素晴らしすぎます。福澤氏の小説では絶對にありえないような破綻がまた、氏の冷徹にして恐怖をジワジワと煽りたてる文体で語られるというこのミスマッチさが本作の見所でしょうか。
黒髮幽靈やビデオに写った不氣味シーンなど、ジャパニーズホラーの骨法に則って語られる物語はいかにも映畫的。福澤氏の作品の風格は希薄ながら、ここ最近の作品には見られないような破綻と投げやりさがキワモノマニアの琴線に触れる怪作といえるでしょう。後半のハチャメチャさはルチオ・フルチ監督(神)の「地獄の門」もかくや、というかんじでゲラゲラ笑いながら愉しませてもらいましたよ。
文字も大きく薄いので普通の本讀みの方でも一時間はかからないと思います。たまには脳がとろけるような脱力ものでも讀んでみるかなサンゲリアっ!なんて氣分の時におすすめしたい一册。まあ、マトモな本讀みは手に取らない方が吉、キワモノマニアのみがグフグフいいながらひっそりと愛でるような作品といえるかもしれません。