昔の和プロクレを懷古するシリーズ、ということで、今日はまだまだ現役で活躍中のARS NOVAがムゼアレコードからリリースして世界進出を果たした記念碑的作品、「The Godness of Darkness」を取り上げてみたいと思います。
リリースされたのが96年ですから、このアルバムがムゼアから出たのは9年も昔の話になるんですねえ。今でこそ前に取り上げた荘園やKALOをはじめとして、多くの和プログレのアーティストがムゼアから世界に向けてアルバムをリリースしている譯ですが、9年前ってどうだったんでしょう。
世界に認められた和プログレのアーティストといって思い浮かぶのはKENSOです。初期の「空に光る」など、和音階をロックのフィールドへと見事に昇華させた名曲など、プログレの本場、歐羅巴のファンが一聽した時にはかなりインパクトがあったと思うんですよ。
で、海外にアピールしていくには當然乍ら、七十年代プログレの猿真似だけでは駄目な譯で、自分のたちのカラーというのを強く出していかなければいけません。で、このARS NOVAは何を武器にしてムゼアに毆りこみをかけていったかというと、和モノのもう一つの特徴、乃ちビジュアル。
ARS NOVAの公式サイトを見て頂きたいのですけど、ゴスとSMとコスプレをこれでもかッというくらいに前面に押し出した雰囲気に壓倒されます。
そして最高なのは、桂子姐さんの素晴らしすぎるコスプレでしょう。例えば金髮のウィッグにショッキングピンクのシースルー、さらにはPJでもこんな下着は賣っていませんよ、というくらいに派手派手なブラといった恰好で、こちらをきっと睨んでいるショット。或いは黒地に大柄の唇のプリントをあしらったストッキングに、これまた金髮のウィッグでしどけなく脚を伸ばしたポーズをキめている悩殺ショットなどなど、とにかく凄すぎます。曲聽く前にすでにお腹一杯ですよ。しかし桂子姐さん、こういったコスプレファッションは勿論なんですけど、例えば白地に大柄のイチゴをあしらったサブリナパンツとか、いったい何処で買っているんでしょう。まさか手製とか。
本作はそんな桂子姐さんの激しいキーボードプレイが堪能できるムゼアデビュー盤。自分が持っているムゼア盤は日本盤とはジャケが違うんですけど、流石にメイド・イン・ジャパン盤のジャケはヤバ過ぎたので、このメタルゴーゴンのイラストに差し替えられたということなんでしょうかねえ。
キーボード、ベース、ドラムというELP的編成ながら、曲の風格はIl Balletto Di Bronzoを思わせる邪惡系です。まず一曲目の「KALI」。惡魔的な雰囲気がプンプンしている冒頭部、ベル、メロトロン、震えるハモンドと、とにかく七十年代の王道プログレの音が一杯に詰まった、當にARS NOVAのカラーを端的に表した曲といえるでしょう。
このバンドの音の特徴は、短いフレーズの転調を畳みかけるように行っていくところで、この曲でもメドレー風に次々と違うテーマを繰り出していく様は劇的です。曲の主導権を握っているキーボードは勿論のこと、堅いベースの音、バタついたドラムと全てがせわしなく曲の雰囲気を盛り上げていきます。
「FURY」も出だしのバタバタと忙しいキーボードの旋律がB級プログレらしいせわしなさでいい味を出しています。その後の異國的なフレーズや、メロトロンでじっくり聽かせる展開など、見せ場も多い曲ですが、これも「KALI」と同樣、とにかく休むことなく場面が次々と転換する慌ただしさで、派手派手な變拍子こそないものの、何度聽いても次の展開を予測することが出來ません。
「MORGAN」は前二曲とは些か異なる、夢見るようなキーボードのフレーズから始まります。ああ、このバンドにもこんな靜的な一面があったんだ、と思わせる冒頭部でありますが、この後の、叩きつけるようなピアノの音によって展開される主題が素晴らしい。このアルバムに収録されているなかでは11分41秒と一番長い曲だけあって見せ場も多く、中間部にもホルンっぽい音を織り交ぜて室内樂っぽい展開を見せたりと、畳みかけるようにバタバタと展開される前の曲と比較して、じっくりと堪能してみたい佳曲でしょう。
「ISIS」は不穩なハモンドの音の連なりから始まり、これまたオーケストラっぽい雰囲気で中間部を盛り上げる佳曲。靜の場面が多いとはいえ、後半部の盛り上げ方も堂に入っています。
そして最後の「THE GORGONS」はジャケにもあるメタルゴーゴンをテーマにしたと思われる大曲で、冒頭部の悲壯感を帶びた旋律が、これまたハモンドの乱入によって一轉、不穩な雰囲気へと變わるところなど當に見事。中間に入る映畫を思わせる效果音なども含めて、他の曲に比べても物語性を強く感じさせるように思えます。
Il Balletto Di Bronzoの邪惡な雰囲気に惹かれる方に、是非とも聽いていただきたい、和プログレの傑作。昔の作品ということでは、この前の2nd「Transi」も本作同樣素晴らしいんですけど、派手さと完成度でとりあえずこちらをおすすめ、ということにしておきます。