タイムトラベルものの傑作。とにかくタイムトラベル、パラレルワールドものには目がないという自分ではありますが、これは素晴らしい作品です。もう手放しで襃めてもいいくらいプロットがよく錬られていて、矛盾なくすべての事件が纏められているのです。
それに主人公の鹿島翔香とその男友達である若松和彦とのやりとりが瑞々しくてこれまた良い。青春小説としての要素も素晴らしく滿たしており、どんなひとにもお薦めできる作品であります。
……といいつつ、実は自分がこの物語を知ったのは映畫の方が最初でありました。この映畫、主演は佐藤藍子でして、當事は佐藤藍子にゾッコンだった自分がこの作品を見逃すはずもありません。監督は、若くて可愛い女の子が好きで好きでタマらなくてあんなこともこんなこともしてみたいとついには犯罪まで犯してしまったあの今関あきよし監督です。
原作と比較すると、何だか珍妙なバリ島でのケチャダンスやホモっぽい展開がほのめかされていたりしてアレなんですけど、佐藤藍子演じる主人公が素晴らしく、映畫としての出來も大林宣彦直系の、青春ものとしても高い完成度を誇るものでありました。流石、リアルで犯罪を犯してでも若い女の子とあんなことこんなことしてみたい、……とそこまで美少女を偏愛していた今関監督でありまして、佐藤藍子の魅力を十分に分かっている作品でありました。
そんなかんじで映畫の方はちょっと今関監督の美少女が好きで好きで、……ってもうクドいか。監督の個性が少しばかり図抜けた作品になってしまっているのですけども、原作の方は青春小説、タイムトラベルものとして端整にまとまっています。タイムトラベルものに恋愛が絡むとその結末は必然的に運命的な出會いと別れが組み込まれてしまうものなのですけども、本作の場合、未來に跳んだ主人公が過去の主人公に向けて手記に殘していたことから始まり、それを男の子と二人三脚で解き明かしていくという展開から、最後はミステリ的な謎解きを經て、サスペンスを交えた展開へと連なり、ハッピーエンドで終わります。論理的な整合性に拘泥するミステリ好きでも、この複雜な仕掛けはきっと氣に入ると思いますよ。
自分のなかではタイムトラベル、パラレルワールドものの中でも三本の指に入る傑作。是非、たくさんの人に讀んでもらいたいものです。