昨日は「アレ」系の作品である「螢」を取り上げましたけど、今日はミステリ好きにもあまり知られていない「アレ」系の作品をひとつ。
作者の船戸与一といえば、「神話の果て」などの南米ものや「猛き箱舟」「砂のクロニクル」といった重厚な作品で知られるハードボイルド、冒險ものの作家ですけども、本作はそんななか突然変異的に生み出された「アレ」系の佳作であります。まあ、この作品の場合、まさか船戸与一がこんなミステリを書くとは思わないじゃないですか。その時點ですでにこのトリックにやられてしまっている譯です。
しかし「アレ」系の話と知りつつも、皆さんが騙されてしまうかちょっと興味のあるところです。もっとも「アレ」系の作品の話題が出たときにも、本作の名前が挙げられているのを見たことはないし、本格ミステリ好きにとってはあまり知られていない作品なのでしょうねえ。
あらすじは以下のようなかんじ。
粉雪の舞い狂う〈木曜〉の夜、ニューヨークの港湾地区で発生した暴動と非情の殺人。そして同じ〈木曜〉の夜、三番埠頭では…。登場人物たちのモノローグが壮大な円環を閉じるとき、死と暴力に彩られた世界は、新たに過去と現在を繋ぐ宿命の物語としての全貌を明かしはじめる―。野心的ミステリー。
「死と暴力」とかいかにも船戸与一らしいフレーズがあるところも、うまいというか。まさかこういった仕掛けがあるとは、このあらすじに目を通しただけでは分かりません。作者の作品にしては、文庫本にして二百頁ほどの中編ですので、あっという間に讀んでしまうことも出來るので、古本屋で見かけたおりには是非とも手にとって頂きたい佳作であります、……って最近この決まり文句が多いなあ。まあ、新作や話題作を取り上げつつも、隱れた傑作名作を掘り下げていくことも、このブログの使命と思っているので、まあいいかな。