ハチャメチャ。
連作短篇なんですけど、作者のあとがきにもある通り、「毒入りチョコレート事件」風に、多重解決の妙を愉しむ為の作品です。
短篇のひとつひとつには探偵である豪凡寺の住職、風峰の推理が用意されているのですが、そこに至るまでの、寺社搜査局の魚間,霧間警部の推理が面白い。とにかく風峰の解決もアレですけど、その間に披露される推理もバカミスのそれ。足跡を殘さない為に、地藏の頭に球乗りで移動したとか、死体を使って人形浄瑠璃ならぬ死体浄瑠璃を演じていただの、バカバカしいトリックのテンコ盛りです。
とぼけた登場人物たちが釀し出す何ともいえない作風は顯在で、例えば、ある人物が自分の推理を語るときに、「赤子がいるけど、孫じゃない。ということは孫じゃない赤子としか考えようがありません」とか頭がぐるぐるしてしまうような台詞をしれっとしゃべってみたり、「派手な螢光色の上下のトレーナーに身を包んでいる」五十過ぎのオバさんはチャウチャウを胸に抱いていたり、……って、チャウチャウは大型犬ですって!いったいどんながたいのオバさんなんだ、とか苦笑してしまったり。とにかく全編これ、くだらないおふざけが満載のステリです。
連作短篇ですから、勿論最後に一連の事件の背後にあった眞相が明かされるのですけど、うーん、これは御約束というか、そんなかんじです。それでもこの予想の範圍内の眞相にも、ちゃんと推理の手掛かりを作中で披露しているあたり、本作をしっかりと本格ミステリたらしめています。
しかしこういうばかばかしい作風って、本當に讀者を選ぶと思います。萬人にはお勸めできないけども、田中啓文の駄洒落を愉しむことができる人とかはいいかもしれません。ユーモアといっても、このくだらなさは島田莊司の「嘘でもいいから殺人事件」とか京極夏彦の釀し出すおかしさとは対極にあるものです。下品というか。嫌いではないですけど、霞流一の作品って、みんなこんなかんじなんですかねえ。ミステリを描く力量は十分にあるのだから、今度はひとつ眞面目で重厚な作品を讀んでみたいものなんですけど、……無理ですかねえ。