これは面白かったですよ。
「猫は勘定にいれません」のtake_14さんのレビューを讀んでからずっと氣になっていた本作、ようやく昨日になって取りかかりました。いつもであれば、行き歸りの電車の中で讀破してしまうのだけども、本作、思いのほか面白かったので、眞ん中あたりから堪能モードに切り替えて、ちょっと時間をかけて讀んでしまいました。
ノッケから何やらサスペンスフル。どうやら船上での身代金受け渡しみたしなシーンから始まるので、「あれっ。これって確かに「密室」の方だよね。「誘拐」の方じゃないよな」などとカバーを確認してしまいましたよ。探偵の森江春策、大阪人にしては凄く謙虚で、かなり好きになってしまいました。「水上の密室」というプロローグが終わると、舞台は突然明治時代にまで遡り、ここでもまた不可解な殺人事件が提示されます。
これが中盤解決を見たかに見えてもうひとつヒネリが加えてあり、……みたいな展開で、現実にあった殺人、更には学生運動時代の殺人も絡んでき、最後にそれが吃驚するようなどんでん返しを見せて終わるのですけど、とにかく本作はサービス精神旺盛なんですよ。
トリックは勿論のこと、プロットも凝っていて、三つの時代の密室事件が畳みかけるように展開されるのでまったく飽きることがありません。更には後半になって、プロローグにもあった繪畫(精確には版畫)強奪事件まで発生して、そこに探偵森江春策が卷き込まれ、……という轉がり方はまるで映畫でも見ているような感覚です。このような重層的なプロットだけでは終わらないところがまたまた驚きで、物語のなかに挿入されていた明治時代のお話に仕掛けがあり、さらには驚くべき犯人があきらかになるという趣向が素晴らしいです。自分はこの明治時代のお話の仕掛けにやられ、そして犯人にやられと、もう作者に騙されまくりました。まあ、本當に気持ち良くやられましたよ。
有栖川有栖の「幻想運河」もそうだったのですけど、大阪って水の都市だったんですねえ。また明治時代に横浜や神戸のような異人街があったという話もちょっと驚きでした。
本格ミステリベスト10で國内部門二位というのは伊達じゃないです。おすすめ。