皇冠出版によると、御大の訪台は四月八日というセンで話が進んでいる樣子。詳細が明らかにされ次第、またこのブログで取り上げてみたいと思います。
皇冠出版によると、御大の訪台は四月八日というセンで話が進んでいる樣子。詳細が明らかにされ次第、またこのブログで取り上げてみたいと思います。
コガシン憑依、人魚木乃伊構造體。
山村御大の長編というと映畫化もされた「湯殿山麓呪い村」くらいしか知らないんですけど、本作は角川ホラー文庫からのリリースで、人魚をモチーフに作者らしいキワモノぶりを炸裂させた一册です。
あらすじはというと、人魚ラブなメルヘン娘が、家庭教師の女と一緒に油壺にあるという研究所に人魚を見に行く道すがら、精神病院を脱走した眞正キ印のフランケンに拉致されてしまいます。
で、フランケンはどうやらメルヘン娘が仕掛けたイジメが原因で自分の娘が自殺してしまったと勘違いしている樣子で、その復讐の為、これからお前を殺して人魚の剥製に仕立てやろうとアンマリな電波宣言をブチあげる。
ドブ鼠がウヨウヨしている暗い部屋に、人魚の木乃伊とおまるだけが置かれた部屋から果たして娘は脱出することが出來るのか、……というフウになるのかと思いきや、物語は一轉して誘拐事件を交えた推理小説的展開へとなだれ込み、家庭教師の女が下半身をブッた切られた死體で發見されるわ、身代金を奪い取られるわと樣々な事件が大發生。
スキンヘッドの強面刑事などが捜査を進める中、最後に辿り着いた眞相は、……ってまア、身代金奪取のトリックと真犯人についても驚愕度は少なく、このあたりは並の出來映えといったところでしょうか。
人間の死體と魚の半身を強引にくっつけたという人魚木乃伊をモチーフにした風格が、本作では物語の構造そのものにも反映されているところに注目で、家庭教師とヒロインの娘がフランケンに拉致されるという怪奇探偵小説趣味の横溢した前半部から、中盤以降は警察の捜査を主体としたごくごく普通の推理小説に轉じてしまうという強引な展開は、マンマ人魚の木乃伊のような不格好さでかなりアレ。
監禁されたヒロインと、フランケンとのやりとりを交えた前半では、そのディテールにいかにも山村御大らしいキワモノっぷりが弾けていて相當に讀ませるものの、後半は實をいうとかなり退屈。個人的には前半のムチャクチャな雰圍氣を保ったままイッキに後半まで突き進んでいったもらいたかったのですけど、まア、確かにフランケンとメルヘン娘とのやりとりだけでこれだけの頁數を引っ張るのは流石に無理かもしれません。
因みにこのフランケンは自称「ナイフ投げの名人」で、警察の捜査によれば、
「あれは十年前のことになりますか。当事、中学一年生だった一人娘が、学校のいじめグループの被害に遭った上、彼女のボーイフレンドの不良中学生たちに輪姦されたとかで、首吊り自殺をしてしまったらしいんです。そのショックで狂ったようですね。死んだ娘の死体を使って人魚のミイラを作り、その肉の一部を食っているのを近所の人に発見され、根津病院に強制収容されることになったんです。約十年間近くというものはおとなしく入院していたんですが、その彼が半年前の豪雨の夜に、とつぜん発作的に病棟から脱走したというわけでして」
キ印が病院を脱走するのは必ず豪雨の夜、という御約束もシッカリと遵守、で、このフランケンは娘っ子を拉致してしまう譯ですが、監禁部屋に用意したおまるが「スワンをかたどった、幼児用の便器」だったり「ドナルド・ダックの便器」だったりと、妙なところに異樣なほどのディテールをきかせてしまうところは山村御大の眞骨頂。
拉致された娘っ子はメイド・バイ・フランケンの人魚木乃伊に對しても「ただの怪物の干物」だと一刀両断、さらにフランケンが食べ物にとおいていった木の実には目もくれずに「ハンガーストライキ」を敢行するわと氣丈なところを見せるものの結局、
「ミイラにするため、お前の体を検分しておきたいんだ。着ている制服と下着を脱いで素っ裸になれ!言う通りにしないと、痛い目に遭わせるぞ!」
とアーミーナイフの鋭い刃を「ピタッピタッと押し当て」られれては抵抗する術もなく、その後は生まれたままの姿の娘っ子を入念にボディチェックをするフランケンの圖でキワモノマニアの乾きを癒してくれたり、血の池温泉に娘っ子を入浴させるという剛気なシーンを披露してそれなりに愉しませてくれるものの、この後は上に書いたように凡庸な捜査シーンが續くところにはガッカリですよ。
誘拐事件の眞相に込み入った動機を凝らして事件を錯綜させているところも、推理小説的に生臭い動機を際だたせるのが目的で、本格ミステリとしての見所はかなり薄め。個人的にはやはり前半に大展開されるフランケンと娘っ子とのキワモノぶりを愉しみ、中盤以降の推理は輕く流してしまった方がいいような氣がします。
因みに巻末に収録された解説によると、山村御大は「胃潰瘍を宣告されたお体のすえ」「三十八度の高熱に襲われた」状態で本作を執筆していたとのことで、成る程、前半の當に熱にうかされたようなキワモノぶりと、後半部の風格の乖離はそれ故だったのかなア、なんて感じた次第、……というか、三十八度の高熱でもこれだけの長編を書けてしまう御大の執念にはただただ驚き、というか呆れてしまったのでありました。
個人的にはやはり御大の長編といえば本作よりも「湯殿山麓」や「霊界予告殺人」などの方がオススメとはいえ、しかし氏のキワモノっぷりやミステリとしての技巧の冴えを堪能したいのであれば以前取り上げた「死神の女」や「幻夢展示館」短編の方がより愉しめるのではないかなア、という氣がします。