讀了。
ついに上卷で用意されていた伏線の全てが回収されます。本作ははタイムトラベルと事件を絡めて傑作となった「タイムリープ」の系譜の作品と考えてもいいでしょう。
あの作品ほど複雜な構成ではないこと、そしてあくまでぼくから見た一人稱で物語が語られていくというところから、放火事件が殘していった脅迫状を手掛かりに犯人が明らかにされていくところは、一般のミステリの手法に極めて近いです、というかミステリそのもの。
脅迫状は何故悠有に送られてくるのか、そして脅迫状に何故或る人物の指紋が殘されていたのか。そしてその意図は何なのか、……それらがぼくの推理によって、物語の後半で明らかにされます。
前半で繰り廣げられる夏祭りの情景、そして花火大会のなか、悠有を搜し回るぼくたち。そこで語られるそれぞれの悠有に對する思い。特にここではあれほど氣丈に見えた響子の弱さが際だっていてこれが物語の後半に絡んできます。
そして、ぼくたちを打ちのめすようにうち續く愛するものの死、……まあ、このへんは多くを語りません。とりあえず讀んでもらうしかありませんよ。
前半の花火大会のシーンがひとつのクライマックスだとしたら、もうひとつは中盤でぼくたちが或る目的で引き起こす「事件」でしょう。悠有の能力がいかんなく発揮され、事件は成功したかに見えたのですが、ここで犯した出來事が綻びとなって、ぼくたちの交錯する思いがぶつかりあい、後半、放火事件の犯人が明らかになっていくとともに、物語は最後の終息へと向けて突き進んでいきます。
ぼくの活躍によって事件は終息し、仲間たちはそれぞれにある意志を抱いてこの土地を離れていきます、……しかしこの別れをぼくは哀切や郷愁を込めて語ることはせず、あくまで事実を述べるだけにとどめて淡々と語るのですが、ここが、いい。
最後の最後、エピローグのぼくの語りで、辺里市の現在と、「あの夏」に未來へと跳んでいってしまった悠有のこと、そしてばらばらになってしまった仲間たちのことが改めて語られます。この物語を敢えて安易な切ない話やハッピーエンドに落とし込まなかった作者のやりかたには色々と意見があるでしょうけども、自分はこれで良かったと思います。
そして物語の最後に辺里市の「現在」の地圖が添えられ、上卷の冒頭でぼくが述べているとおり、この物語は「あの夏の」そして「あの土地」の事件だったのだということが明かされて終わります。
數々の伏線を広げて物語を大きく転がすのではなく、「この街の物語」に落とし込もうとした作者の意図に共感できるかで本作の評價は變わってくると思うのですけど、どうでしょう。ええ、自分は勿論愉しめました。寧ろ、本作はミステリファンでSFも好き、というような人に支持されるのではないかな、と思うのですが如何。
何かまだ本屋で見つけるのが難しい現状なんですけど、take_14さん、gyoxayさんはもう手に入れることが出來たでしょうか。早く皆樣の意見をおうかがいしたいですよ。