最新作。作者の新境地といえるのではないでしょうか。
犬搜しを專門にはじめた探偵事務所「紺屋S&R」は開業したその日に失踪人搜しと古文書の解読という仕事を請け負います。調査を進めていくうちに、このふたつは繋がっていく、……という話なのですが、探偵事務所、そして失踪人捜しと、外装はいかにもベタなハードボイルド小説のような物語乍ら、二つの出來事が徐々にクロスしていく構成や、失踪人の行動を追っていくうちに、事件の見え方が見事な反転を見せるところなど、ミステリとしての巧みさはやはり作者の作品だなと思わせる傑作です。
第一章は私である紺屋の一人稱で話が進むのですが、第二章からは紺屋の部活の後輩でこの事務所に雇われることになったハンペーのパートとが併行して語られます。
私である紺屋は失踪人の調査を、そして俺であるハンペーは古文書の調査を進めていく譯ですが、調査の過程で現れる怪しい人物、そして古文書の謂われが失踪人を見つける手掛かりへと繋がっていく後半が拔群にいい。
失踪の原因がネットストーカーから逃れる為、というあたりの設定が今風で、失踪人が公開していて削除したサイトの文章を舊に、紺屋は彼女の居所を突き止めるのですが、同時にストーカーの方も同じようにして彼女を追っています。
後半、失踪人の不可解な行動を調べていくうちに、紺屋はある眞相を突き止めるのですが、その瞬間にすべての樣相が見事な陰陽の反転を見せます。
失踪人が隱れ家に殘していた手記、そしてそこに綴られていた文章、彼女は故郷に帰ってきて行っていた不可解な行動、さらには古文書の謂われを調査していく過程で見つけた或る本、圖書館、……すべてのピースが嵌った刹那明らかにされる「事件」の計畫、そして眞相。……
これがミステリとして素晴らしい效果を見せていて、この後、物語はストーカーが彼女を見つけるのが先か、紺屋が見つけるのが先か、というサスペンスを交えての急展開となります。
「事件」は呆氣なく終息するのですが、この「事件」の不在をほのめかしながら終わるラストは血腥い物語を厭う作者らしい終幕といえるでしょう。
「さよなら妖精」のような切なさはないけども、「クドリャフカ」風の飄々とした展開や、ユーモラスな場面などなど、また違った魅力のある物語です。
失踪事件という普通のミステリ的な要素を物語の骨格に据えながらも、やはりそこは米澤氏らしい小説だな、と。「氷菓」、「愚者のエンドロール」が簡單に手に入るようになり、まだ「クドリャフカの順番」も讀んでないという方もいるかと思いますが、本作も米澤ファンだったら絶對に見逃せない作品でしょう。
そしてもう一つ嬉しいのが、ジャケ帶をめくると、「THE CASE-BOOK OF “KOYA SEARCH & RESCUE” 1」とあるんですけど、もしかしてこれってシリーズ化確定ですか。 紺屋とハンペーの活躍をもっともっと讀んでみたいので、もし次作があるとしたら大いに期待。