つい先日取り上げた新城カズマの「サマー/タイム/トラベラー (1)」ですが、皆さんのレビューに目を通してみると、語り口がいつになくアツいです。
しかしこの作者がもしかしたら自分と同世代、いや下手をしたら自分より年上かもしれないというのは、「猫は勘定にいれません」のtake_14さんのレビューで知りましたよ。まさかキャリアが十年以上もあるベテランだったとは驚きです。
で、「The Spirit Of Gyoxay」のgyoxayさんも本作を取り上げていまして、特に「非日常的なSFという設定が拒否反応を起こすことなく、その日常の中にゆっくりと進行させていく」という指摘になるほど、と膝を打ったのでありました。と同時に、響子さんに却下されそうといいつつも、西澤保彦の「七回死んだ男」をタイムトラベルもののひとつとして挙げておられるところにニンマリしてしまった自分であります。
よし、次のネタはこれでいこう、と。題して「響子さんに却下されてしまったタイムトラベルもの」シリーズ、ということで、今日は半村良の短篇にして、タイムトラベルものの名作である本作を取り上げてみようと思います、……とえらく長い前置きですみません。
半村良でタイムトラベルものといえば、今だと「戦國自衞隊」が旬なんでしょうけど、やはりそこは切なさを伴った風格のある作品でないといけませんよ。そこで本作です。
写真のジャケは自分が持っている角川文庫版で、イラストは例によって杉本一文。ちょっと怖いかんじなんですけど、まあ、角川の半村シリーズの中ではまともな方です。
さて、物語の方は、江戸時代の戯作者山東京伝に興味を持っているコピーライターの私が、ふとしたきっかけでこれまた江戸時代の岡っ引き平吉の手になる舊い日記を手に入れます。
その日記にはおよねという女性にたいする恋慕が綴られてい、彼女がある日神隱しにあってしまったことが記されていた。そんなおり、コマーシャルに起用した人気歌手菊園京子がその日記の内容を知り盡くしていることに私は驚きます。
実は彼女こそが江戸時代に神隱しにあったおよねそのひとで、彼女は町屋敷跡にあった倉の穴(要するにタイムマシン)を拔けて現代にやってきた、というのです。およねが語る話から、私は平吉の日記に書かれていた内容を讀み解こうとして、……というかんじで物語は進みます。
およねがこちらに持ってきたもの、そして逆に現代から時穴を通して江戸に送ったものの二つがどのように過去と現在に影響を与えているのか、というのが明らかになっていくところ、そして現代に殘った京子の哀しい結末、さらには私と京子との意外な關係が最後にあきらかにされて、物語は終わります。
この纏め方がいかにも半村良らしいのですが、よくよく考えてみると、gyoxayさんが「サマー/タイム/トラベラー (1)」のレビューで指摘しておられた「非日常的なSFという設定が拒否反応を起こすことなく、その日常の中にゆっくりと進行させていく」っていうのは、當に半村良の作品に相通じる風格だと思うのですが如何でしょう。
本作も同樣で、物語のはじめはコピーライターの私の仕事と山東京伝のことが語られ、そこにすっとSF的な仕掛けが入り込んでくるという、このあたりの展開が本當に巧みなのです。
しかしアマゾンで見てみると、本作、角川文庫版も早川文庫版も絶版ですか!しかしそれでも古本屋で角川文庫版を見かけた方には是非手にとっていただきたいと思います。半村良のデビュー作「収穫」も収録されていて、どの短篇も本當に素晴らしいものばかり。タイムトラベルもの好きだったら満足できる古典的名品だと思います。