なかなかの傑作。ホラーというより、その奇想はSFに近いと思う。とにかく記憶とパラレルワールドを組み合わせたその強引な手法に脱帽しました。
前にも何処かで書いたように思うのですが、自分はパラレルワールドものとか、タイムトラベルものに弱いんですよねえ。これは廣い意味でのパラレルワールドものだと思うんですけど、そこに記憶と脳科學を取り混ぜて摩訶不思議な物語に仕上げてしまったことに驚きました。
またいったい何が起こっているのか分からず、登場人物たちとともにその謎解きをしていく展開はミステリのようでもあります。更には死んだ人間が登場人物たちの前に姿を現し、現実世界が奇妙に歪んでいくさまが強烈。このイヤ感は牧野修の小説にも通じるものがありますね。
いったいこれだけ話が擴がっていって、どういうふうに纏めるのかな、と思ったのですけども、このエンディングは予想の範圍内でした。ここがちょっと殘念、というか。それと後半謎解きがされたあと、物語がちょっと失速してしまうんですよ。これが惜しい。井上夢人の「メドゥーサ、鏡をごらん」のアノかんじ、といえば分かる人には分かってもらえると思います。そう、アレですよ。それでもこれはあくまでちょっと意地惡な讀み方をすれば、というただし書きをつけてです。
ちょっと衒學が過ぎて、説明がくどいと感じるところもありましたけど、ここで挫折してしまったらこの物語に仕掛けられた奇想を愉しむことが出來ないので、少しばかり辛抱して作者の説明に付き合う方が吉。
次作に期待したい新人であります。