半村良の伝説シリーズというと、黄金伝説など初期のアクの強い作品にどうしても目がいってしまうけども、本作は良い意味で肩の力が抜けた佳作。SFというよりは、氏のもうひとつの持ち味である人情ものにSF風味をくわえた、といった方がこの物語の雰圍氣を分かってもらえると思います。
解説によれば、この作品は昭和五十一年からほぼ日本かけて「婦人公論」で連載されたものだというから、そもそもSFのハードな話ではなく、超能力者の女性ヒロインと失踪した彼女を探す夫との愛の絆をテーマとした愛情物語としてまとめようとしていたのではないでしょうか。
ヒロインが逃避行のなかで樣々な人と出會い、そして別れる。その逃避行の先で彼女の前に現れる人物がまた魅力的なんだよなあ。金沢で出会った岡崎老人、そして米澤であった柴崎ふじ、そして伸子。皆、小説のなかに登場するにはあまりに普通の人たちなのだけども、半村良の手にかかると、こういう市居の人たちがかくも魅力的に見えてくるから、やはり凄い、と思う。
本作には「岬一郎の抵抗」のような虚無的なラストを迎えるわけではなく、ほっとするようなハッピーエンドでしめくくってある。このあたりは女性讀者に向けられたものなのかもしれません。讀み終えたあとにはちょっといい氣分になれる作品であります。