本作は年末恆例のミステリベストテンでも上位にランクインしたようで、本屋に行くと平積みになっています。
自分も発売された時に即買いしたクチなんですけど、感想はというと、「確かによくできているけど、……」というものでした。
前半の推理が二転三転する展開は完全に自分の好みだし、探偵役の二人の男女のキャラクターも素晴らしく、特に一癖も二癖もありそうな、榎本は良い味を出している。
しかしこのテンポが第二部の「死のコンビネーション」に至って失速する。いや、失速というよりも、この流れは完全に分断されてしまう。第二部は犯人の側から物語が書かれており、これは前作の「青の炎」と同じもので、うまく書けているのだけども……。
この犯人が事件を犯す動機というものはこの第二部で書かれており納得は出来るものなのだが、「青の炎」の場合そのラストが秀逸であった為に名作となりえているのに對して、この作品の場合、第一部の探偵役の榎本によって犯罪が暴かれ、自首をすすめられておしまい、なので、どうにもキリが惡いというか何というか、餘韻を感じられない。「青の炎」の終わり方が鮮烈であっただけにこのあたりがちょっと自分では納得がいかないのであります。
それともうひとつ。第一部、第二部ともウマく書けすぎているが故に、この二つが一つの小説のなかに混在しているのがちょっとヘンというかんじがする。どちらかがどちらかに依存することなく、二つの部が一つの「物語」として主張しすぎているために、かえって不格好な小説になってしまってまとまっていないような印象を受けるのです。なので、傑作には違いないけども、構成の妙とか、そういうことを考えると、全体に仕掛けが施されていた乾くるみの「イニシエーション・ラブ」とかの方が小説としては上をいっているかな、と感じた次第。