二階堂黎人といえば、蘭子シリーズ「だけ」というのが自分の頭にあって、このサトルものは今まで無視していたのであります。どうにもこの漫畫の表紙も、「おいおい、違うだろ」というかんじだったんですけど、とりあえず二階堂黎人の長編も例の人狼城を殘すだけとなったので、これは正月休みにとっておくとして、とりあえず買ってみるかと思って手にとってみたのがこれ。
事件が発生して、生島と馬田とのやりとりは警察小説のようなノリで完全に予想をいい意味で裏切られたというかんじでした。また蘭子シリーズとは全然文体が違うのにも驚きです。蘭子シリーズというと、江戸川乱歩やあの時代の探偵小説を髣髴とさせる大仰な表現がその持ち味のひとつで、それがまた「二階堂黎人は文章が下手」だの「大袈裟な表現ばかりでウンザリ」とか誤解を受けてしまう要因のひとつになっているのだけども、彼の小説にたいして上にあげたような印象を持っている人にはまず本書を讀んでいただきたいですね、いや本當に。
自分としては二階堂黎人は決して文章が下手な作家という印象はなくて、寧ろ讀みやすく、うまい文章を書ける人なのではないかと感じています。また本書の場合、探偵役である水乃サトルは勿論のこと、登場人物が妙にとぼけていて良い。島田莊司の「嘘でもいいから」シリーズのような強烈な破壞力はないものの、時折吹き出してしまうようなユーモアの效いた文章が挿入されていてそれがまた良い(何か、氷川透といい、最近の自分はこういうのが多いな)。
また現代ということもあって、ものの説明をする時にも固有名詞がよく登場する。ルノー・アルピーヌにサーフボードをつんでサーフィンに行ったというエピソードにはまじで吹き出してしまいましたよ。
この小説の眼目はアリバイ崩しですから、正直犯人は分かっています。どうやってこの殺人をなしえたかというのが最大の謎であるわけですけど、「何故死體は線路に放り出されたのか」とか「何故死體の手首は切断されたていたのか」などの疑問がすべてあきらかになった時には感心しました。
蘭子シリーズは自分と相性が良いのか、何となくトリックも犯人も察しがついてしまうのですけど、今回は全然分かりませんでした。