うーん、実は最後の二行では驚きませんでした。しかし改めて最初から讀みかえし、物語の時系列を知るに至って唖然としました。やられた、と。この小説の真相、讀み方、愉しみ方については色々なところで論じられているので、本を閉じたあと、暫くのあいだ、ウェブ上にある皆さんの感想を讀み耽ってしまいましたよ。
それでも何か意見が分かれているなあ、と。恋愛小説として讀むと陳腐で退屈という意見もあれば、その點には拘泥せずに、構成の妙を絶讃する人もいたりして興味深い。
で、自分はというと、一番の大がかりな仕掛けについては讀んでいる最中に分かってしまったものの、上に述べた通りもう一つの仕掛け(とはいってもすべての仕掛けは密接に関連している譯ですけど)にやられたことを知って吃驚し、物語のヒロインに対する見方も反転してしまい、更に驚き、というかんじです。
このヒロインに対する印象が、物語の仕掛けを知ることによってまったく変わってしまう、というのがこの小説の肝だと思うのだけども、それから更に考えてみて、またヒロインに対する見方、というか気持が変わってしまっている自分に気がつきました。
以下ネタバレ。
結局マユは二股かけていて、Side Aの主人公の鈴木を騙していた譯で、仕掛けを知ったすぐには「何だ、この女は!」と思ったのだけども、よくよく讀みかえしてみると、Side Bの鈴木ってシラッとしているけども女に平気で手をあげるような暴力男だった譯でしょう?マユにしてみればそんな彼から逃れたいという気持も心の何処かにはあって、そこにSide Aの鈴木が現れた。マユにしてみればだんだん疎遠になっていく暴力鈴木のことを好きだという一方、彼から逃げたいという気持も心の何処かにあったのではないでしょうか。そう考えると、Side Aの鈴木は彼女にとって浮気相手というよりは、暴力男から逃避する為の、いうなれば「代わり」だったのではなかろうか、と考えてみたりするわけです。甘いですかねえ。
まあ、そういう譯で、ヒロインに關しては眞相が分かっても、ちょっと同情してしまっている自分であります。ヒロインがどうだ、というのであれば、美弥子も結構エグくないですか?彼の方に彼女がいると知ってて、ああいうコトをしてしまうというのはちょっと。
さて、何で自分がSide A Bの鈴木が別人だということを見拔けたかというと簡單で、Side Aの鈴木は53pで「今年の春には内定をもらっていて」その会社は「富士通だ」といっているではないですか。
で、Side Bの鈴木の勤務先は慶徳ギフトだか商事だということになっているので、「あ、これは別人だろうな」と考えて讀み進めてしまった譯です。
しかし表紙をめくったところにあるあらすじには以下のように書いてある。
「大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、學生時代最後の年をともに過ごした。
マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。週末だけの長距離恋愛になってしまいいつしかふたりに隙間が生じていって……。」
とあるんですけど、「東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職した」って何處に書いてあるんですか?自分はどうやら讀み過ごしてしまったらしく全然気がつきませんでした。ウェブ上にある感想を見ても、このことに触れている人はいないし……。もし誰が知っていたら教えてください。
この小説を読み説く上で參考になったサイトは以下の通り。
「物語の宝石箱」 ここから色々と辿っていきました。
「「イニシエーション・ラブ」ネタバレ書評」 そのまんまです。
「The Neverending Mystery’s Minimum」 ここも色々な意見が讀めて參考になりました。