藤原新也の代表作、というわけではないけども自分にとっては印象に残っている一作。というのも、作中で藤原新也が逗留する山梨の下部、身延、草塩というのが、自分の祖母がかつて住んでいた場所で、自分にとっても親しみのある場所であるからというのがひとつ。
それと後半に登場する母親に飼い殺しにされてしまう男の子供のエピソード、「トム坊やの自閉的な冒險」から始まるこれも、この母親が「イヤ感」が痛いくらいに感じられ、心に残る。
また藤原新也の作品にしては珍しく、寫眞が少ない。ただ最後に一枚だけ、「自己滅尽くの桃源」と題するエッセイの終わりに、アンダー氣味の海の寫眞がおさめられており、これが深い讀後感を殘す。本當であれば、ここに金屬ばっと事件の跡地の寫眞が掲載されている筈であったのだけども、この作品の終わりに、追記としてこの寫眞は使用しないことにした、とある。この寫眞があればまたこのエッセイの印象も異なったかもしれない。