「人魚とミノタウロス」の方が後から出てやつですから順番としては逆になってしまったのだけども、これもなかなか面白かった。ネットで色々と調べてみたら、この作品も「人魚」と同樣評判は良いみたいですね。
しかし犯人とそこに至るまでの推理に關してはちょっと首を傾げてしまうようなところもあるような、ないような。自分の讀込が甘いのかもしれない。以下ネタバレ。
確かにドアの開閉が記録されていて、そこから犯人を推理していくというのはその通りなのだけども、犯人は部屋の中に入るさいにドアを使ったと確信する前に、窓からの浸入に關して議論されていたのかしら、と。
さらに警備員の死體の場合、喉に刃物を突きたてて殺した譯ですから、尋常ではない返り血をその場で浴びていた筈で、この點に關しても何だかさらっと流されていたようなきがする。血まみれになった犯人がその姿のまますんなりと現場の建物を立ち去ることはとうてい出來ないんじゃないか、というのが自分の考えなのだけども……。
……とまあ、上のような疑問もあるのだけども、文章もこなれていて讀みやすく、物語を堪能出來ました。「人魚」も、奇天烈な女警官がいい味を出していたけども、本書では祐天寺美帆が素晴らしい。これだけのトンがったキャラならシリーズ化しても良いでは、なんて思っていたら、最近カッパの方から出た新刊では彼女が探偵役とのこと。んで、本書を読みおわったあと、さっそく購入しましたよ。
本書のなかでも彼女が出て來るパートはとにかく際だっていて、その表現がまた素晴らしい。クイーンの國名シリーズの話になったところで、あかね書房版のジュブナイルのタイトルを口にしたり、目を輝かせて氷川のことを先生と呼んだり、或いは高井戸が彼女に體面したときの印象として、彼女の言葉遣いを「むかしなつかしい」といったり。更には氷川に先生といったら嫌な顏をされたからと、今度は彼のことを「さま」づけて呼んだり、最後にはダメ押しとばかりに「デーゲル問題」と大眞面目でいってみたり……とまあ、これだけ突出したキャラを一回の登場で終わらせてしまうのはあまりに惜しい、と作者の氷川氏も考えたんでしょうねえ。とりあえず祐天寺美帆の活躍には大きな期待。