これはちょっと讀み方を間違えてしまいましたよ。タイムカプセルをネタに、イジメや謎っぽい引き籠もり野郎なども絡めて物語が進み、最後に件のタイムカプセルが開かれるところでクライマックスを迎えるという構成、さらにはそのタイムカプセルを掘り返すぞッというその後の場面は袋綴じという仕込みに、自分はムチャクチャ期待して、というか期待しすぎてしまいまして。
ワクワクしながら袋綴じを開いてみたら、あまりのアッサリぶりに唖然、というか、眞相と折原マジックの仕掛けに驚くよりも、いつにないその淡泊ぶりに吃驚してしまいました。
という譯で、自分はいつもながらの折原マジックに過剩な期待をし過ぎてしまったという點で完全に本作の趣向を讀み違えてしまったゆえ、後半のネタ開陳にノることが出來なかったのですけど、よくよく考えてみれば本作は「自由な発想で自分の道を切り開こうとしている若い世代」に向けられた理論社YA!シリーズの一作ゆえ、それほど凄まじい折原マジックが仕掛けられている筈もなく、もっと輕い氣持で挑むべき物語であった譯で、レーベルの主旨を無視していつも通りの折原作品と同樣に讀み進めてしまった自分に責があり、……とゴチャゴチャ言い訳を竝べてもどうにもならないので、とりあえずこれから本作を讀み始めようとしている方の為、注意書きめいた内容を以下に書き留めておこうと思います。
物語は例によってゴシック書體と明朝體を使い分けて、手記と小説部分とを巧みに織り交ぜた構成で進みます。冒頭、何だか異樣な雰圍氣の中で執り行われた卒業式の場面から始まるのですけど、既にこのシーンで怪しい奴が約一名登場。
その名前からして何だかいかにも譯ありな雰圍氣がムンムンなんですけど、物語が進むにつれてコイツは引き籠もりで、クラスメートはおろか担任の教師でさえもその姿を見たことがない、という尋常ではない事實が明らかにされていきます。
しかし物語を牽引していくのはこの怪しい人物ではなく、駆けだしカメラマンの女性で、彼女はある日奇妙な手紙を受け取るのですけど、その内容というのが十年前に皆でタイムカプセルを開けてみましょう、というもの。
日時と場所もシッカリと指定してあり、さらには出席、缺席を書き込むところには差出人が勝手に出席の方にマルをつけているという按排で怪しいことこのうえない。彼女はこの手紙をきっかけに、かつての旧友と連絡をとり始めるのだが、……。
タイムカプセルを一緒に埋めた仲間の中には恋愛模樣あり、引き籠もりあり、イジメありと過去の出來事にネチっこく言及するイヤっぷりは流石で、ゴシック書體で綴られた過去の記述を要所要所に挿入することによってドンヨリとした雰圍氣を盛り上げていくところは期待通り。
また、暗がりに閉じこめられた人物のモノローグもキモで、こいつが一體何者なのかがラストで明かされるところも見所でしょう。しかし今一度讀みかえして感じるに、本作の場合、複数の謎が鏤められていてそれらが同樣の比重をもって語られている為に、どうにも中心となる謎というものがなおざりにされてしまっているような氣がするんですよねえ。
引き籠もり野郎の正体、そして暗がりに閉じこめられた男は何者なのか、また怪しい招待状を届ける人物の正体、さらには「ホール」という小説を書いている人物の正体は本當に件の引き籠もり野郎なのか、また「ホール」という隠語で語られる過去の出來事の眞相は何なのか、その時に暗闇の中にいた人物の正体は、……等等あって、それらが一應最後には明かされるものの、やはり「タイムカプセル」というタイトルからして、自分はそれらの眞相が件のタイムカプセルが開かれた瞬間に、いいかえれば十年前に埋めたタイムカプセルの中に封印しておいたブツがその眞相を明らかにするような展開なのだろう、なんて大きな勘違いをしてしまった譯です。
さらに最後のタイムカプセルを開こうとするシーンの後が袋綴じになっていて、「さあ、あなたも三年A組のメンバーとともにタイムカプセルを開けてみませんか」なんて煽り文句まで添えられていたものだから、この袋綴じの中はタイムカプセルに閉じこめたブツがそのまま収録されていて、その内容が總ての眞相を明らかにするのだろう、なんて期待してしまったものだからいけません。
冷靜に考えてみれば、現在進行形で起こっている事件の真相が、十年前に埋められたタイムカプセルの中身で解き明かされる筈もなく、……なんて考えながらも、もし過去のブツがそのまま現在の謎をも解き明かすような構成だったらこれは凄い、と思うじゃないですか。実際、自分はそんなふうに過剩な期待を抱いてしまったゆえ、ワクワクしながら袋綴じを開けてみたあとはもう唖然。
袋綴じの中身では、タイムカプセルに閉じこめてあったブツも開陳されてはいるものの、普通の小説と同樣の構成で進み、それぞれの人物が自分たちのブツを受け取る場面が描かれていきます。まア、そこで上に述べた謎の眞相も明らかにされていく譯ですけども、それらのネタも他作の折原マジックに比較すると非常に淡泊で、想像の範囲内、というか、物語の結構そのものがひっくり返るような大技ではないところには逆の意味で呆然としてしまいました。
もしこれが袋綴じではなく、例の「さあ、あなたも三年A組のメンバーとともにタイムカプセルを開けてみせまんか」という煽り文句がなかったら、自分もこれほど過剩な期待をすることはなかったとは思うのですけど、マンマとノせられてしまったというか、騙されてしまったというか、いずれにしろ折原ファンがいつも通りの過剩な期待をしてしまうと大きな肩透かしを喰らってしまうやもしれませんので、そのあたりは取扱いに注意、ということで。
ただ、逆にいうと、未だ折原作品に触れたことのないビギナーであれば、本作も大いに愉しむことは出來るのではないでしょうか。繰り返しになりますが、本作は「自由な発想で自分の道を切り開こうとしている若い世代」に向けられた理論社YA!シリーズの一册であり、その一方ですでにキャリアの長い折原氏の作品をYA!世代が讀みまくっているとは考えがたい、という事實を鑑みれば、本作のやや淡泊な仕掛けとネタにも納得、でしょう。
本作はあくまであまりミステリを讀みなれていない「中高生」に向けられた一册であり、自分のような「中高年」の為の作品ではない、という點に留意しておけば、上に述べたような内容に關しても沒問題、山田正紀氏の「雨の恐竜」がYA!世代のみならず自分のようなオジサンも思わず偏愛してしまいたくなる一册だったゆえ、妙な期待をしてしまったのが總ての敗因と推察されるゆえ、これから本作に取りかかろうとしている「中高生」ならぬ「中高年」の方々は御注意のほどを、というところで纏めておきたいと思います。