爆笑漢字ドリル、フルチ御大御滿悦。
角川ホラー文庫からのリリースということに、おやッと思ってしまったクラニーの新作。真面目に怖い話かな、なんて予想していたんですけど、恐らく倉阪氏は大眞面目ながらも要所要所に吹き出してしまうような爆笑をネタに仕込んでしまうのはやはり作者の性、でしょうか。
物語の方は、「死の影」みたいに曰くあり、のマンションを舞台に最後はキ印が人を殺しまくるというお話なんですけど、本作の場合は女だらけの物件というところが新機軸で、管理人は頭の足りないデブ男でおまけにワナビーというイタさゆえ、後半では絶對にこいつがコロシまくるんだろうなア、という期待通りに展開されていく物語にはもう爆笑。
もっとも仕込みは何だか意味深に始まるプロローグから始まっていて、男に捨てられた女が赤ん坊を背負ったまま怒りにまかせて「憎や憎や」と鎌をやたらメッタラに振り回した擧げ句に赤子を切り殺してしまうという、戦慄するべきなのか爆笑するべきなのか頭を抱えてしまうエピソードもクラニーのファンには堪りません。
さらに入居者は女だけというマンションの住人もそれぞれに個性的で、女流作家や韓國人のチェリスト、怪奇小説の研究家など、微妙に普通人とは外れたキャラが取り揃えてあり、これが最後にワナビーのデブ男に慘殺されていくという結構です。
ヒロインとなるのが韓國人のチェリストなんですけど、しかしヒロインとはいえそこは倉阪氏の作品ゆえ、勿論彼女もとうてい普通のキャラである筈もなく、彼女の祖母は靈感體質だったり、兄貴はアマレスの選手で妹にレスリングの技を仕掛けたりするわとやりたい放題。
彼女が祖母の靈感體質を引き継いでいて、これが後半の伏線になっていくのは當然予想出來たものの、まさか兄イがアマレスの選手であったことが最後の惡霊との對決に絡んでくるところはもう唖然、霊場がコロシアムへと變幻する展開にはもう爆笑するしかありません。
文字禍ネタで漢字が亂れまくり、さらには憎やが肉屋へと變じる駄洒落ぶりにも注目で、前半のゆったりとした展開から一轉して、やりたい放題の倉阪ワールドへと堕ちていく後半が見所ながら、個人的にはプロローグからシッカリと添えられている笑いの仕込みに受けまくりでした。
しかしただでさえ感情移入の難しい倉阪氏の作品のヒロインが韓國人ということもあって、後半の爆發にノれるか心配だったんですけど、ヒロインのイェニョンを無理矢理ヨンアに脳内變換して讀み進めていったので個人的にはそれほど苦にはなりませんでした、……というか、「下町の迷宮、昭和の幻」もそうだったんですけど、最近のクラニーが微妙に韓流づいているところがちょっと心配で、いずれや恐怖の「法則」が發動しないか気になってしまうのでありました。
何だか笑えるところばかりに言及して、恐怖、ホラーといった要素にマッタク触れていないのですけど、実際角川ホラー文庫の一册として見た場合、浮きまくった作風が相當にアレで、角川ホラー文庫の固定客への受けはどうなのか、そのあたりが気になるものの、ホラーの結構に脱力の笑いを凝らした作風はいつもながらのクラニー節、倉阪氏のファンであれば本作も同樣に愉しむことが出來るでしょう。