台湾に注文していた本が届いたんですけど、その中の一册である既晴氏の新作「修羅火」に、島田御大などの飜譯本を紹介した折り込みチラシが入っておりまして、これが凄いんですよ。
自分は台湾で飜譯された日本作家の作品はあまり追いかけていなかったんですけど、何より素晴らしいのはそのジャケで、特に綾辻氏の作品は繪柄といい色合いといい、その全てがひばり書房系のスカムホラー本を髣髴とさせる出来榮えで、今日はこれを取り上げてみたいと思います。
「眼球特別料理」みたいに、ジャケ柄からタイトルまで、そのマンマというのもあるにはあるんですけど、その殆どはタイトルがまったく變わってしまってます。とりあえず台湾版「フリークス」のジャケはこんなかんじ。「鉄の處女」を思わせる棺の中に涙を流した泣き仮面をあしらったものに、大きく赤字でタイトルの「怪胎」を左に配置。
泣き仮面が何氣にコケシに見えてしまうところがアレなんですけど、これなどはまだやさしい方で、逆光に佇む天野可淡の人形の耽美的な雰圍氣が印象的だった講談社文庫版「黄昏の囁き」の台湾版では、目ン玉を剥きだしたピエロがナイフを片手にポーカーフェイスで御登場、という構図。もうこの作品を讀んだのってずっと昔なんで内容の方もすっかり忘れてしまったんですけど、これってレクイエムが流れる劇場で觀客が殺人ピエロに追いかけられる、みたいなお話でしたっけ。
「鳴風荘事件」はその地味なタイトルを「屍體長髮之謎」とあまりにベタな内容に變更して、ジャケにはヤバ氣な女の絞殺死体をフィーチャー。黒目の小さな眸が何処となく黒田みのるセンセの「霊障人間」ジャケ風で、肉感のある唇を突き出しているところや、全体的にくすんだ色合いのデザインが「ひばり」らしさをビンビンに釀し出しているところがナイス。ディテールでマニア心を擽るところがタマリません。
しかし妙チキリンな顔を据えたものとしては、これなどはまだやさしい方で、かの傑作「霧越邸殺人事件」はこれまた「童謠的死亡預言」とベタなタイトルに名前を變え、さらには「童謠」の文字に黒文字と赤い縁取りまで凝らして見立て殺人ものであることを大きく強調しています。
これ、右手には緑色の骸骨が赤いスニーカーならぬ赤い下駄を履いて突っ立っているんですけど、どうやら片手には如雨露を握っている樣子。で、ド真ん中にびしょ濡れになって斃れている男の顔がもうヤバ過ぎ。これでは小さくてちょっと見にくいと思うんで、男の顔だけ拡大してみたものが隣の寫眞で、完全に白目を剥きながらゲラゲラ笑っているとこが相當にアレ。
これと並んでイチオシなのが、「暗闇の囁き」の台湾版で、タイトルは「人偶王子的魔咒」。ほとんど黒に近い濃緑のジャケ故に、どうしても右上手に描かれた火の見櫓みたいな建物にばかり目がいってしまうと思うんですけど、ここで注目すべきは左手下の不氣味君で、ここだけシッカリと拡大してみたのがこの右の繪。
きちんとネクタイをした正装ながら、下から懷中電灯の光をあてて照らしたようなその顔は、ムロタニツネ象の「地獄くん」系。鶴の簪とか蕪菁となどの主要アイテムをチョコンとあしらっただけのシンプルなジャケがあまり印象に残らない島田御大の本に比較すると、綾辻氏の作品はどれも一目見ただけで、「あの時代」の懷かしいホラー漫画を思い出してしまうような素晴らしいジャケ画ばかりです。
恐らく今回の訪台で綾辻氏もこの台湾版のすべてのジャケに目を通していると思うんですけど、楳図かずおは勿論のこと、あの時代のホラー漫画にも造詣の深い氏がどのような感想を持ったのか、興味のあるところですよ。
ただ、黄昏シリーズなど、講談社文庫の美しいデザインに馴れてしまった日本のファンとしては、ムンムンに怪しげな雰圍氣を放っている台湾版は正直複雜な心境カモ、しれません。「暗闇の囁き」の不氣味君と「霧越邸殺人事件」のゲラ男では風格も微妙に違うように見えるし、これが同じ絵師の手になるものなのか、機會があったら調べてみたいと思います。