ネバッこい文章によって綴られる正史ワールド。
作者の作品はこれが初めてなんですけど、……スミマセン。最初から謝ってしまうと、この作品、どうにも自分とは相性がよくなかったようです。文章のリズムが自分に合わないというか、そんなかんじなんですよ。
内容としては、ド田舍の奇妙な因習にとらわれた土俗的な村、隱然と影響力を誇る兩家の対立、神隱しといった怪異、見立て殺人、と自分的にはかなりツボなアイテムがテンコ盛りだというのに、今ひとつこの物語に高揚できなかったのは恐らくこの文体の故でありまして、ベッタリした地の文のリズムが自分の讀み方に合わなかったというか。しかしこの獨特の文体から釀し出される禍々しい雰囲気は確かに貴重。これにハマれる人にはかなりイケると思います。
物語は「はじめに」と題した怪奇作家の前口上から始まります。以下に明かされる物語の時代を不明にしたまま語られるお話は、「壹」と數字の記された文章と、憑き物系の一族のひとりである沙霧の手記、さらには村でもう一方の家に属する漣三郎の手記、そして怪奇作家の手記から構成されています。で、讀む進めている間に奇妙な違和感にとらわれていたのですが、最後になってこの眞相が明かされます。
物語は怪奇作家が前口上でも述べている通り、これがいつ起こった事件なのかが不明のまま、三人の手記が交錯しながら進む為、このなかで起こっている事件を時系列に把握するのがまず難しい。憑き物系の家の女が生霊に取り憑かれ、それを祓う為の儀式が執り行われる。で、その生き靈を封印した依代を沙霧が川に流そうとすると、怪異に遭遇。さらにこの生き靈が現れる前に、村で恐れられている厭魅が出た、という噂が広まってい、こんななかに件の怪奇作家がこの村を訪れると、カカシ様に見立てた恰好で、憑き物系の家にやってきていたインチキ山伏が殺されて、……って事件が発生するのは本の中程。ここまでが結構長いんですよ。
で、次々と殺される人間が村では神樣として祀られているカカシ様に見立てて殺されていた、というから尋常じゃない。犯人の動機は、そして何故犯人は殺した人間をカカシ様に見立てていくのか、というところを謎として引っ張っていくのですが、……上にも書いたとおり、自分は物語にノれなかったので、感想は差し控えさせていただきます。決してダメな作品という譯ではなくて、あくまでこれは相性の問題。
テキストに仕組まれた仕掛けもなかなかのものですし、最後の最後に現出する「眞相」が不氣味な餘韻を残して終わる幕引きもいい。ただ、これだけの為にノれない文章を三日かけて(そう、いつもならこれくらいの厚さの本であれば一日で終わるんですけどねえ)讀むのはチと辛い。作者はほかにも作品をリリースしているんですけど、皆が皆、この文体なんでしょうか。
それとも本作だけがこの異樣な村の雰囲気を盛り上げる為に敢えてこういう文体を採用したのか。これを調べる為にも作者の他の作品も手にとってみるべきなのかなあ、とも思うんですけど、まあ、また機会があったらということで。