どうにも最近の陳慧琳のアルバムはその人氣に阿った駄作ばかりでいいかげん飽き飽きしていたんですけど、本作は佳曲揃いの完成度で、久しぶりに堪能させてもらいましたよ。
陳慧琳のアルバムというと、最近のはちょっとノリのよいダンスミュージックばかりで、なんだかなあ、と思っていた譯です。もともと彼女の歌聲や歌い方というのはこういうものより、「Da De Deum 我失戀」や「體會」のような初期アルバムに顯著だった、じっくりしっとりと歌い上げる曲調の方が似合っていると思っていた自分としては、本作は當に原點回帰というか。しっとりじっくりと歌い上げる曲が大半を占め、珍妙なピエロの扮装で寒すぎるロボットダンスを繰り廣げるMVがいかにもイタい「自由」「放」を覗けば、どれも捨て曲なしの素晴らしさです。
冒頭を飾る「自由」はとりあえず無視していいでしょう。とにかくこういう曲は似合いませんって彼女には。
という譯で二曲目の「穿越時空遇見ni」は艶っぽくも落ち着いた声でじっくりと歌い上げる前半から、劇的に転じるサビの盛り上がりがいい。こういう曲を待っていたんですよ自分は。
續く「兩個世界」もこれまたミディアムテンポでしっとりと歌う彼女の声に併せるように進んでいくギターがいい。この曲など完全に原點回帰ともいえる曲調です。
「糖衣興巧克力」は囁きっぽいコーラスとの絡みがいい味を見せている一曲。
タイトル曲にもなっている「我是陽光的」もまた低音部のピアノに併せてじっくりと歌ってみせる彼女の声が印象的です。ストリングスもうまく效かせて落ち着いた雰囲気で盛り上げていく曲展開といい、當に中華ポップスの王道を行く出來榮えです。ジジ・リョンほど裏聲を使わない彼女だけども、この曲ではサビの部分で衒いもなく囁くような裏聲を使っていてこれがいい效果を出しています。
「再見北極星」は六十年代ハリウッド映畫のサントラふうに入るイントロから、周傳雄の歌聲、陳慧琳の歌が絡み、素晴らしいデュエットで聽かせる一曲。カップルがカラオケで絶對歌うでしょ!という盛り上がりを見せるサビの部分など當に王道。
「短消息」は導入部こそシンセの甘い音が入るものの、歌の部分はピアノとギターの生音を中心にこれまたじっくりと聽かせる佳曲でしょう。驚くべきは一曲目の「自由」を覗いてここまでずっとこうした調子の曲が續いていることですよ。少し前の陳慧琳のアルバムでは考えられないことでした。
「ni太冷静」は「自由」と同じく「泥酔王」雷頌徳が書いた曲なんですけど、二曲目から七曲目に連なるじっくりしっとり系の曲でして、「自由」のフザけたダンスミュージックとは一線を画する王道路線。これもまた原點回帰の一曲といえるでしょう。というか、昔の雷頌徳は彼女のアルバムにこういう曲ばかりに提供していなかったか、と。「自由」みたいな曲は彼女に似合わないんですってば。
「今生ni作伴」は幻想的なシンセの導入部に囁きっぽい彼女の歌聲が絡んでいくあたりが少しばかり趣を異にするものの、安っぽい打ちこみドラムが入るあたりからはごく普通の展開で物足りない。まあ、本アルバムの中では「自由」と同じく自分のなかでは今少し、という一曲でしょうかねえ。
「希望」は中華民謠フウのイントロから、これ、臺灣語で歌ってもいいんじゃない、という旋律が妙にムズムズしてしまう展開がアレなんですけど、よくよく見たら、「電視劇『大長今』主題曲」とあるんで、まあこういうものなんでしょう。續く「思念」も前の「希望」と同じく「大長今」の插入歌でして、まあそういう曲調です。
最後をしめる「放」は「自由」の廣東語版。全然イケてないです。
という譯で、爽やかなほどに中華ポップスの王道を行く曲調は、當に初期の名盤「Da De Deum 我失戀」や「體會」を髣髴とさせる出来榮えで、初期の陳慧琳のアルバムが好きな人におすすめしたい一作です。